研究課題/領域番号 |
18K05165
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
勝田 正一 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (40277273)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イオン液体 / 溶媒抽出 / 分離濃縮 / レアメタル / 薬毒物 / ヨウ素 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,従来抽出が困難とされてきた物質に対して有効な新たなイオン液体(IL)抽出系を開発することを目的とする。主な抽出対象は,(1) 白金族金属,(2) 陽イオン性薬毒物,(3) ヨウ化物イオン(I-)である。各対象についての2019年度の研究実績概要は以下の通りである。 (1) 研究代表者らが開発したロジウム(Rh)のIL抽出法を,当年度は自動車用廃触媒からのRhの分離回収へ応用した。廃触媒には主要金属成分としてAl,Mg,La,Ceが,微量金属成分としてCa,Cu,Fe,Mo,Nd,Ni,Pt,Rh,Znが含まれる。廃触媒から金属成分を溶出した塩酸溶液に対し,IL(塩化トリオクチルアンモニウム)による抽出と濃塩酸による逆抽出を行い,Rhのみをほぼ定量的に回収することに成功した。 (2) 前年度にコリンエステラーゼ阻害薬であるピリドスチグミンおよびネオスチグミンのILマイクロ抽出法を開発し,水中のこれら陽イオン性薬物を微少量のIL相に高倍率濃縮することが可能となった。一方,その濃縮液をHPLC分析する際に,共存するIL成分による干渉が問題となった。当年度は,この干渉を抑制するため,濃縮液中のIL成分の除去について検討した。その結果,ある種の無機塩の添加によるIL成分の沈殿分離が有効であることがわかった。 (3) 前年度にかん水中のI-を高効率に抽出可能なIL抽出系を見出したが,当年度は主に抽出後のIL相からI-を回収する方法およびヨウ素分析法への応用について検討した。ILとして塩化トリオクチルアンモニウムを用いた場合,抽出後のIL相をアルカリ性水溶液と振り混ぜることにより,大部分のI-を逆抽出できた。また,天然かん水中のI-を1/100容のホスホニウム系ILへ抽出した後,その抽出液をそのままEDX分析することにより,微量のヨウ素を簡単に定量できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ロジウムのIL抽出については,抽出能・選択性の優れた抽出系を確立することができ,実試料への応用にも成功した。目的はほぼ達成されたといえるが,実用性を高めるには,抽出後のIL相から白金を分離回収する方法や,ILの再利用法(他の金属の分離除去法)についてもブラッシュアップする必要がある。 (2) 水中の陽イオン性薬毒物に対するILマイクロ抽出-HPLC分析について,主な方法・条件を確立できた。一方,本法を実際の薬毒物分析へ応用するためには,実試料中の夾雑物の影響等について検討し,更に条件を最適化することが必要がある。 (3) かん水中のI-イオンの抽出分離・回収について,主な方法・条件を確立することができた。実用的には,ヨウ化物イオンと他のハロゲン化物イオン(塩化物イオン,臭化物イオン)との相互分離や,純粋なヨウ素(単体あるいは化合物)としての単離について,更なる検討が必要である。 その他,2019年度には,ランタノイドのIL抽出や金属酸化物ナノ粒子のILマイクロ抽出にも取り組み,IL抽出の新たな可能性を見出すことができた。 以上のように,本研究は現在までおおむね順調に進展しており,また次年度以降の課題・展開も明確である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 自動車用廃触媒からIL抽出を行った後のIL相から,白金およびその他の金属を分離・除去する方法について検討する。 (2) 陽イオン性薬毒物のILマイクロ抽出-HPLC分析法を最適化し,環境水や生体試料などの実試料へ適用する。 (3) かん水中のヨウ素を分離・回収するための一連の分離システム(IL抽出を含むシステム)を構築する。 (4) ランタノイドのIL抽出系における抽出能・選択能の原因を明らかにし,ランタノイドの相互分離に有効なIL抽出系を探索する。 (5) 海水等の天然水に含まれる微量の金属含有コロイド粒子を分離・定量するための新しい方法(ILマイクロ抽出を伴う方法)を確立し,実試料へ適用する。 また,これまでの研究成果のまとめと論文発表にも注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2019年度は当年度配分額をほぼ計画通り執行した。今後の研究成果発表に要する費用(旅費・論文掲載料等)や,運営費交付金の削減等を想定し,当初の計画以上に支出することは避けた。すなわち,次年度使用額のほぼ全ては2018年度に生じた額である。2018年度に次年度使用額が生じた理由については,前年度の実施状況報告書(様式F-7-1)に記載した。
(使用計画)本研究の遂行に必要な試薬類(イオン液体,HPLC用溶媒,金属塩等)および器具類(HPLC関連部品,ガラス器具等)の購入に約100万円,学会旅費(国際学会を含む)に約50万円,その他(ICP発光分析装置等の共用機器使用料)に約30万円を充てる予定である。
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備考 |
・日本分析化学会第68年会「展望とトピックス」掲載(2019年8月28日,p.33)“液体の塩「イオン液体」でヨウ素を効率よく集める” ・日経産業新聞 掲載(2019年12月18日,p.7)“ヨウ素、イオン液体で99%回収”
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