研究実績の概要 |
これまで、1H、13C、31P NMRを用い、化学シフトの拡張試薬として水溶性ポルフィリンCo(III)錯体やp-シメンあるいはペンタメチルシクロペンタジエニルが配位したRu(II)やRh(III)錯体を用いて、キラル化合物の分析を行ってきた。Ru(II)やRh(III)錯体については、不斉化合物がこれらの錯体に配位すると、金属イオン周りも不斉となるために、可視領域に強度の大きいCDスペクトルが観測されることも明らかになった。令和4年度は、これらの錯体以外に、1,4,7-トリアザシクロノナンやペンタメチルシクロペンタジエニルを配位したCo(III)錯体でも同様に可視領域に強度が大きいCDスペクトルが観測され、不斉化合物の絶対配置を容易に帰属できることがわかった。さらに、生成した不斉錯体に、不斉をもたない配位子を反応させ、不斉配位子との置換反応を行っても、不斉配位子が多座配位子の場合は、逐次的に置換が起き、生成した不斉配位子をもたない錯体がキラリティをもつという不斉伝搬反応も観測された。また、水溶性ポルフィリンである5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォン酸を配位子にもつCo(III)錯体を用いると、金属イオン周りに不斉が無くても、配位不斉分子の隣接基効果によりポルフィリン環のソーレ―帯に強度の大きいvicinal CDが観測され、容易に不斉分子の絶対配置を決定できることがわかった。さらに、水溶性ではない不斉分子に対しては、5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリンCo(III)錯体を有機溶媒中で用いれば、同様な分析ができることも明らかになった。 今年度は、これまで検討してきた金属錯体と、1H、13C、多核NMRおよびCDスペクトルを相補的に用いて、広い濃度範囲の水溶液および有機溶媒中で、多種不斉化合物の簡便な絶対配置の決定方法を確立する。
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