研究課題/領域番号 |
18K05173
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (40207121)
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研究分担者 |
竹内 政樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 准教授 (10457319)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フロー分析法 / 高濃度試料 / 非希釈分析 / 振幅変調 / フーリエ変換 |
研究実績の概要 |
三角波制御振幅変調フロー分析法のシステム構築とVisual BASICによる自動化プログラムの作成を行った。システムはコンピュータ,信号発生器,3台のペリスタポンプ,自作の石英フローセルを導入した紫外可視検出器およびテフロン配管等によって構成される。総流量一定のもと,試料流量を三角波制御信号で周期的に変動させつつ定流量の呈色試薬溶液と合流させ(総流量との差分は第3の流路から緩衝液を導入することで調整),流れの中で反応させた後,下流に設置した紫外可視検出器で測定した。検出信号を高速フーリエ変換し,各周波数成分の振幅の和ΣAと試料濃度Cとの関係(検出信号が飽和しない低濃度領域ではΣAはCに比例,飽和する高濃度領域ではCΣAがCに比例)より目的成分の濃度を求めた。Fe(II)イオンのフェナントロリン吸光光度法に応用し,信号が飽和する高濃度試料でも希釈することなく測定可能であることを確認した。さらに,高濃度試料を分析する際に起こりうる光学セル窓への呈色物質の沈着の問題を解消するため,光学セルを要しない検出法として液滴検出法の開発を行った。再現性のよい液滴の生成など課題は多いが,ファイバー出力LED光源とフォトセンサアンプを用いた透過光強度の測定およびデジタルマイクロスコープによる画像検出(画像データよりRGB値を求める)の2つの方法について研究が進展中である。研究遂行の過程で,本研究で提案する三角波制御振幅変調フロー分析法は,分析機器の測定レンジを超えるために信号が飽和する高濃度試料よりも,むしろ試薬の不足によって信号が頭打ちする中濃度試料の分析に長所を発揮することが明らかとなった(高濃度試料では分散による振幅減衰により,理想的な検出信号の形状からの隔たりが大きくなる)。このことにより,試薬消費量の削減が可能なフロー分析法という新たな意義が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フローシステムの構築,Visual BASICによるプログラムの作成,フェナントロリン吸光光度法を用いた基本的分析条件の検討,フローインジェクション分析法との比較など,当初の研究計画に記した事項は概ね遂行でき,国内学会および国際学会(PACCON 2019)でもその成果を発表することができた。研究の進行とともに,提案する「三角波制御振幅変調フロー分析法」は,検出器の測定レンジの限界のために信号が飽和する高濃度試料への応用よりも,試薬濃度が不足するために信号が頭打ちになる中濃度試料への応用に発展性があるように見受けられた。このことは,意図的に試薬濃度を低くしても分析が可能であることを示しており,試薬の節約が可能なフロー分析法の創成という新たな可能性が見いだせた。さらに,高濃度のリン酸イオンの定量(呈色反応の際,生成したモリブデンブルーが光学セル窓に沈着しやすい)を想定し,光学セル窓のない検出法として液滴検出法にも取り組んだ。1) 細管の末端に次々と液滴を生成させ,光ファイバーを介して発光ダイオードからの光を入射させ,透過光を光ファイバーでフォトダイオードに導いて検出する方法,2) 液滴をデジタルマイクロスコープで動画撮影し,画像解析することによりRGB値を算出し,その値より目的成分濃度を求める方法,の2つのアプローチに取り組んでいる。これらは当初の計画では考え及ばなかったもので,今後の発展が期待できるものと考えている。原著論文の公表にはまだ至っていないものの,想定していた以上に研究の展望が広がっていることから「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
三角波制御振幅変調フロー分析法が試薬量削減に有効であることが明かになったので,フェナントロリン吸光光度法によるFe(II)イオン定量を用いて,どの程度まで試薬量を削減することが可能かを検討する。その結果を,最も一般的なフロー分析法であるフローインジェクション分析法による結果と比較し,本研究の長所を明瞭にする。また,分散による振幅減衰の影響を補正する方法についても検討する。これまでの研究で,高速フーリエ変換によって求めた直流成分DCと振幅和ΣAの差を振幅減衰による影響とみなし,各検出信号からこの差を引いてから解析すると理論と比較的よく合致するという結果が得られた。そこで,この補正法を自動化でするようプログラムを改良する。 高濃度試料測定のための液滴検出法については,まずは再現性のよい液滴生成を目的として検討を続ける。細管材質(現在はテフロン細管を用いているが,その柔軟性が短所になっているのでステンレス管の使用を検討),液滴生成側(流路末端)の管と,落下した液滴を受け止め吸引除去する下側の管との間隔,液滴に対する照射側と受光側の光ファイバーの位置などを最適化する。液滴に映った背景目盛りも誤差の一因になっているので,この点も改良する。色素を用いて基礎的検討を行ったのち,モリブデンブルー吸光光度法によるリン酸イオンの定量に応用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行の過程で,高濃度試料の分析の際に起こりうる呈色物質の光学セル窓への沈着という問題を避けるため,光学セルを用いない液滴検出法の開発を最優先にするべきと判断した。そこで特注のフロー式液滴型吸光度計(約13万円)や超小型ファイバ出力LED光源および付属品(約14.4万円)など液滴検出関連品を購入し,当初予定していたペリスタポンプ2台(計76万円)の購入を差し控えた結果,次年度使用額が生じた。なお,ペリスタポンプは他の研究で用いていた現有品を流用した。 旅費については申請額20万円に対し実績額18,7000円,その他については申請額5万円に対し実績額56,644円(主に国際学会参加登録費)と大きな隔たりはなかった。人件費・謝金は計上していなかったが,Visual BASICプログラムの作成のためにプログラミングに高度な知識を有する学生に研究協力を依頼したため,人件費として49,955円が必要となった。 生じた次年度使用額については,液滴検出器をさらなる1台の製作(現在は光検出と画像検出の2つを検討しており,同時に研究できないため進行に支障が生じている)とペリスタポンプ1台の購入に充てたい。
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