研究課題/領域番号 |
18K05174
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
渡辺 茂 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (70253333)
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研究分担者 |
松崎 茂展 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (00190439)
仁子 陽輔 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 助教 (20782056)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細菌検出 / バクテリアファージ / 金ナノ粒子 / 暗視野顕微鏡法 / 光散乱 |
研究実績の概要 |
微生物検査は,感染症や食中毒の予防・衛生管理の面から重要である.しかし,培養に基づく従来法では検査に2~10日を要し,病原菌の特定に至っても手遅れになる場合が多く,検査の迅速化・簡易化が強く求められている.近年,PCRや抗原抗体反応を利用した迅速検査技術が開発されているが,遺伝子解析には煩雑な操作や高額な機器が必要である.また,細菌の中には,宿主免疫を回避するような防御機能を備えているものもあり,遺伝子解析や免疫反応に依らない新奇な検出原理が求められている. 金ナノ粒子は,そのユニークな光学特性のためイオンから遺伝子,細胞に至る各種生体分子の迅速かつ簡便な比色検出に利用されている.しかし,いずれも粒子間距離に強く依存するプラズモン共鳴効果を検出原理としており,粒子サイズよりも大きなバイオナノマテリアルを細菌認識部位として利用する場合には,有効に機能しない.一方,バクテリオファージは,細菌特異的に感染するウイルスの総称であり,標的細菌を特異的に識別する機能を備えている.その機能を自在に活用できるようになれば,遺伝子や免疫検出法に代わる迅速かつ簡便な細菌検出法への応用が期待できる.本研究では,金ナノ粒子が発する強力な散乱光を検出原理とする新たなナノプローブとして,シリカナノ粒子表面に金ナノ粒子とファージを担持させたファージプラズモニクスプローブの作製法について検討すると共に,暗視野顕微鏡法と組み合わせた迅速な細菌の検出法について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,暗視野顕微鏡法とファージプラズモニクスプローブを組み合わせた迅速な細菌検出法の開発をめざしている.はじめに暗視野顕微鏡観察下,標的細菌の散乱光強度を増大させるプラズモニクスプローブとして,シリカナノ粒子の表面に金ナノ粒子を担持させた金平糖型ナノ粒子の作製法について検討した.金平糖型ナノ粒子は,シリカナノ粒子を代表的なカチオン性ポリマーであるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド):PDDAで被覆した後,負電荷を帯びたクエン酸還元金ナノ粒子を担持させることで作製した.次に,標的細菌(黄色ブドウ球菌)に対する選択性を付与するため,細菌認識部位として黄色ブドウ球菌を宿主とするバクテリアファージを金平糖型ナノ粒子の表面に固定化する方法について検討した.特にファージの宿主特異性は,尾部に存在する吸着タンパク質にあるため,その機能を最大限発揮させるには,頭部を担体表面に向け細菌と結合可能な状態で固定化する必要がある.しかし,ファージの配向制御法は確立されていない.そこで,段階的に組織化技術を確立するため,はじめに静電相互作用を利用した指向性自己組織化について検討した.一般にDNAを収納しているファージ頭部は負電荷を帯びており,静電相互作用を介した配向制御が期待される.そこで,金平糖型ナノ粒子の表面を再びPDDAで被覆した後,ファージを粒子表面に固定化した.得られたファージプラズモニクスプローブと黄色ブドウ球菌あるいは大腸菌を混合後,暗視野顕微鏡で観察した.細菌認識部位として利用したファージの宿主である黄色ブドウ球菌のみからプローブ由来の強い散乱光が観察され,標的細菌を選択的に検出できることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
新奇な細菌検出用バイオ素材として,バクテリアファージの活用をめざす本研究では,3つの到達目標を掲げている. 【研究目標1】“ファージ機能制御技術”の開発:ファージは,細菌に感染し菌体を溶かして増殖するウイルスであり,ファージのライフサイクル(吸着,侵入,生合成,成熟,放出)の内,吸着機能のみ発揮させる方法について検討する. 【研究目標2】 “ファージ組織化技術”の開発:ファージの宿主特異性は尾部にあり,標的細菌に対して高い結合力を発揮するためには,ファージの配向を制御しながら組織化する必要がある.ファージの機能を最大限に発揮させる組織化技術を開発する. 【研究目標3】 “ファージナノプローブ”の開発:ファージの細菌認識現象を検出可能な物理信号に変換するバイオインターフェイスを開発する. 初年度は,研究目標2について静電相互作用を利用した指向性自己組織化技術を確立した.また研究目標3について金平糖型ナノ粒子を利用したファージプラズモニクスプローブを開発した.次年度は,研究目標1の検討,および研究目標2については,共有結合を利用した指向性自己組織化技術の確立,研究目標3については,蛍光性ナノエマルションを利用した“ファージ蛍光ナノプローブ”の開発について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 学内の競争的資金を獲得したこともあり,溶媒,ガラス器具,分光器の光源など各研究課題に共通する消耗品の一部を学内競争資金より支出した.そのため当初計上していた物品費が予定額を下回った. (使用計画) 次年度は,金平糖型ナノ粒子を利用したファージプラズモニクスプローブに加え,蛍光性ナノエマルションを利用したファージ蛍光ナノプローブの開発を予定している.金ナノ粒子を作製する無機合成試薬および蛍光色素やナノエマルションを作製する有機合成試薬の購入,および年度末に発生した経年劣化に伴う一部分析機器の不具合に伴い,当初予定していなかった主要分析機器(動的光散乱光度計,ゼータ電位計,紫外可視分光光度計,蛍光分光光度計など)の保守点検を計画している.
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