研究課題
微生物検査は,感染症や食中毒の予防・衛生管理の面から重要である.しかし,培養に基づく従来法では検査に2~10日を要し,病原菌の特定に至っても手遅れになる場合が多く,検査の迅速化・簡易化が強く求められている.近年,PCRや抗原抗体反応を利用した迅速検査技術が開発されているが,遺伝子解析には煩雑な操作や高額な機器が必要である.また,細菌の中には,宿主免疫を回避するような防御機能を備えているものもあり,遺伝子解析や免疫反応に依らない新奇な検出原理が求められている.バクテリオファージ(以下,ファージと省略する)は,細菌特異的に感染するウイルスの総称であり,標的細菌を特異的に識別する機能を備えている.その機能を自在に活用できるようになれば,遺伝子や免疫検出法に代わる迅速かつ簡便な細菌検出法への応用が期待できる.これまでに標的細菌にチオール化ファージを結合させた後,金ナノ粒子と混合するとAu-S結合を介して細菌に結合したファージ上に金ナノ粒子が凝集し,その色調変化を通じて細菌を選択的に検出できることを明らかにした.本年度は,本手法の定量分析への応用について検討した.黄色ブドウ球菌を宿主とするファージのチオール化は,その表面のカルボキシル基を活性エステルへと変換した後,アミノエタンチオールと反応させることによって調製した.さらに,細菌を含む試料と混合し,遠心分離によって余剰のファージを除去した後,チオール化ファージの結合した細菌を金ナノ粒子の水溶液に添加し,混合液の色調変化を観察した.試料に黄色ブドウ球菌が含まれている場合,混合液の色は赤色から青色へと変化し,このとき色調変化をもたらす細菌濃度が,金ナノ粒子の初期濃度に依存することを見出した.これによって金ナノ粒子の初期濃度を制御することによって,1,000-100,000,000 cfu/mLの範囲の細菌を目視によって検出できることがわかった.
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