研究課題/領域番号 |
18K05176
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石松 亮一 九州大学, 工学研究院, 助教 (90512781)
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研究分担者 |
水野 潤 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (60386737)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラジカルイオン / 電子移動速度 / 電気化学発光 / 共反応体 / マーカス理論 |
研究実績の概要 |
ラジカルイオン種は様々な反応に関与している。光や熱によってラジカル種の生成は可能であるが、電気化学的に比較的簡単にラジカルイオン種の生成が可能である。電気化学と分光法を組み合わせた電気化学分光法によってラジカルイオン種の吸収スペクトル等の分光学的特性はあきらかにされてきた。しかしながら、分光電気化学では、やや特殊な電気化学(光学)セルを用い、バルク全電解を必要とするので、測定に数分程度を必要とする。従って、不安定なラジカルの検出には不向きである。そこで、我々はより迅速に測定が可能な手法の開発を行った。ミリ秒時間分解能を有するEMCCDカメラを用い、電極反応で生成する多環芳香族のラジカルイオンのミリ秒時間分解吸収スペクトルを取得するとともに、クエンチャー存在下における吸光度変化の時間依存およびクエンチャー濃度依存性を明らかにした。 また、ラジカルイオン種は、電気化学発光と呼ばれる発光現象にも深く関わっている。電気化学発光はラジカルイオン種間の電子移動によって励起状態が形成され、発光が観測される。そこで、本年度は、Eu_(III)やTb(III)錯体の電気化学発光の特性についての解析も行った。なお、Eu(III)やTb(III)錯体の酸化還元体は非常に不安定であり、共反応体の一種であるペルオキソ二硫酸を用いて電気化学発光を発生させた。電位依存スペクトルを取得することによって、以下の発光メカニズムを見出した。配位子と硫酸ラジカルとの電子移動を経て配位子の励起状態が形成され、このエネルギーが中心金属に移動し発光が観測される。さらに、Eu(III)錯体の電気化学発光を光源に利用した、リン酸イオンの定量法についても報告した。これに加え、Aza-BODIPY誘導体の電気化学発光の解析を行い、速度論的にS2状態の形成が可能であり、これによって電気化学発光の効率が大きく上昇することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、ラジカルイオン種のミリ秒時間分解を持つ検出法の確立であったが、すでにいくつかの電気化学的に生成したラジカルイオン種で、本手法の有用性を示すことができた。これに加え、電子移動速度等の検出法や、解析、電気化学発光への応用についても展開しており、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロアレイ電極等を用いた、時間・空間分解能を有する検出システムの構築を目指す。これによって、局所的に起こる電子移動の解析に応用する。このほか、平成30年度に展開してきた電気化学発光についても、新たな発光分子を用いて、ラジカルイオン種の反応性に関する速度論的解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分光光度計の購入を予定していたが、現在保有している装置の改良で対応したために次年度使用額が生じた。本年度、さらに改良を施して、市販の分光光度計と同等の性能を持つシステムを構築するのに使用する予定である。
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