研究課題
アンビエント質量分析法の1つであるリアルタイム直接分析法(DART)は,“その場”計測手法として近年盛んに利用されている.産学の両面でDARTの実用・応用性が高まる一方,DARTの基本要素であるヘリウムの使用改善が求められているが,最適な代替案の選定や実用化には至っていない.代表者は最近,自身のこれまでの研究で確立した放電ニードル電極に低電力を印加することで発生する「暗流」で励起されたアルゴンが,DARTと同等の計測性能を発揮し得ることを発見した.そこで平成30年度は,系統的に集積した物理化学的性質が異なる種々の有機化合物(a-アミノ酸やアルカンなど)を試料とし,暗流励起アルゴンによるイオン化特性を調査した.得られた結果は以下のようにまとめられる.(i)極性分子(M)を暗流励起アルゴンによってイオン化すると,DARTと同様のイオン種,すなわち(脱)プロトン分子 [M±H]±,酸化体の(脱)プロトン分子[M±H+nO]±,水素脱離アニオン[M-2H-H]-,負イオン付加体[M+R]-(R-:負のバックグラウンドイオン)が生成する.これらの絶対強度はDARTと比較して1.1~8.1倍高い.(ii)無極性分子(M’)は,ヒドリド脱離と酸化反応を経て[M’+O-3H]+や[M’+2O-H]+として検出される.(iii)バックグラウンドイオンとして主にH3O+(H2O)n, O2+, O2-(H2O)n, CO3-が検出された.これらの生成反応とそこに関わるエネルギー値を考慮すると,当該暗流で励起されるアルゴンは,14 eV以上の内部エネルギーを有する共鳴状態や高リュードベリ状態と示唆される.(iv)暗流励起アルゴンによる試料の(脱)プロトン分子は,バックグラウンドイオンであるH3O+(H2O)nおよびO2-(H2O)nとのプロトン移動反応によって生成すると示唆される.
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画通りに進んでおり,論文の投稿に至っているため.
当該暗流励起アルゴンで生成する試料イオン量と放電内で発生する電流値の関係を調査する.励起種生成ガス(アルゴンの他,ヘリウム,窒素など)の組み合わせを数種作り,ピコ~ナノアンペアレベルの電流変化および検出されるイオン量の変化を調査する.各組み合わせで得られる結果の相違点を見出し,暗流励起アルゴンが存在する放電場の物理化学的性質を追究する.
大学内の授業等の業務により,当初予定していた海外出張を取りやめた,代わりに平成31年度(令和元年)に海外出張を取り入れる.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Journal of the American Society for Mass Spectrometry
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Atmospheric Chemistry and Physics
巻: 18 ページ: 15451~15470
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