研究課題/領域番号 |
18K05182
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
東海林 敦 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (90459850)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクソソーム / 脂質二分子膜 / グラミシジン |
研究実績の概要 |
ガン細胞から分泌されるエクソソームには、分泌元のガン細胞の情報が集約されているため、その膜に存在するタンパク質の種類や量から、ガンの種類や進行状況を把握できる。しかしながら、あらゆる細胞から放出されるエクソソームのうち、ガン細胞由来のエクソソームのみを単離することは難しい。本研究では、ガン細胞由来エクソソームのみを人工細胞の膜に融合させる技術を確立し、ガン診断への応用することを目的としている。 これまで、ガン細胞由来のエクソソームの選択的膜融合を可能とする人工細胞膜を設計する上で、エクソソームと人工細胞の膜融合をリアルタイムで評価できる方法を構築してきた。この方法では、膜融合の指標として一価の陽イオンチャネル(グラミシジン)のコンダクタンス値(抵抗の逆数)が膜融合に伴い、増加する現象に基づいているが、その道教のメカニズムは明らかでない。そこで、2019 年度には、グラミシジンのシングルチャネル計測を行い、昨年度の研究成果を踏まえて膜融合のアッセイ法のメカニズムを以下のように考察した。エクソソームと人工細胞膜の膜融合に伴い、局所的に人工細胞膜が変調し、バルク中のグラミシジンが膜へと移行することで、膜に包埋されるグラミシジンの分子数が増大する。その際、シングルチャネル活性は膜融合の前後で変化しない。 人工細胞膜の脂質組成をかえ、膜融合アッセイを行った結果、コレステロールやカチオン脂質が膜融合を促進することが明らかになった。カチオン脂質とエクソソームは静電相互座用により、相互作用するため膜融合が促進されたものと考えられる。エクソソームと細胞膜の膜融合を促進するトリガーとして、エクソソーム膜と人工細胞膜の相互作用が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
様々な細胞から放出されるエクソソームを用いて膜融合アッセイを行ってきたところ、エクソソーム膜融合の選択性は pH 条件に依存することを明らかにしてきた。また、エクソソーム膜と細胞膜が相互作用することで、膜融合が促進されることを示唆するデータも得られており、このことから膜タンパク質同士の相互作用が膜融合のトリガーとなっている可能性が考えられる。これらの知見は、エクソソームが選択的に膜融合する人工細胞膜界面を設計するのに有益な情報となり得る。2019 年度までに、人工細胞膜の界面をデザインすることが目標であったものの、まだそれには至っていない。しかしながら、エクソソーム膜タンパク質と相互作用するタンパク質を導入した人工細胞膜を作成することで、選択的膜融合を可能にする人工細胞膜界面をデザインできるものと示唆される。 また、エクソソームを膜融合させた人工細胞膜の界面には、エクソソーム由来の膜タンパク質が移し取られており、膜タンパク質に対する抗体を用いることで検出可能であることを実証している。このことは、選択的なエクソソームの膜融合後における人工細胞膜界面に存在するエクソソーム由来の膜タンパク質を検出するシステムを構築する上で重要な知見である。 一方、単一の人工細胞(巨大一枚膜リポソーム)を固定化する技術の開発も行ってきた。80μm 四方の窪みを有するチップの作製に成功しており、人工細胞をトラップすることに成功している。しかしながら,2 個以上の細胞膜をトラップさせてしまうこともあり、さらなる改良が必要である。 以上のように、多少、当初想定していた研究計画から遅れているものの、2020年度に選択的膜融合を可能とする人工細胞膜界面のデザインと膜タンパク質検出への応用を達成することができるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行する上で、検討すべきことは 人工細胞膜界面の設計、 単一の人工細胞のアレイ化、エクソソーム由来の膜タンパク質の蛍光検出法の確立である。 エクソソームと人工細胞膜の膜融合アッセイを利用して、特定のエクソソームが選択的に膜融合できる人工細胞膜の界面設計を行う。乳がん細胞 (MCF-7) 由来のエクソソームを対象として、エクソソーム膜タンパク質の抗体フラグメントを人工細胞の膜界面に化学修飾する。抗体と人工細胞膜のリンカー長が膜融合に重要であると予測している。抗体フラグメントは 4 nm 前後の分子サイズであり、抗体を直接、人工細胞膜界面に導入することで膜融合が促進される可能性もあるものの、フレキシブルなリンカーを介することでより、エクソソーム膜が人工細胞膜にアクセスしやすくなると考えられる、さらに、MCF-7 は低い pH 条件下で膜融合が促進されることを我々は明らかにしてきた。共存するエクソソームの膜融合における pH 依存性を考慮しながら、選択的膜融合に最適な pH 条件を見出す。 一方、単一の人工細胞膜をアレイ化する技術開発も重要である。チップ内の微小な窪みに人工細胞膜を物理的にトラップさせる方法を検討してきたが、新たに、アビジン-ビオチン結合を利用することで、強固に人工細胞膜を固定化できるように改良することが重要となる。 これらの技術を組み合わせて、アレイ化した人工細胞膜にエクソソームを膜融合させる。MCF-7 由来のエクソソームを検出するために、蛍光標識抗体を利用する。人工細胞膜界面に存在するエクソソーム由来膜タンパク質を蛍光標識抗体で処理し、人工細胞の洗浄後、蛍光測定により膜タンパク質を検出できるものと思われる。複数の抗体を用いることで、MCF-7 由来のエクソソームを高い精度で検出できるようになる。なお。蛍光測定用の検出器はすでに保有している。
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次年度使用額が生じた理由 |
人工細胞にエクソソームを膜融合させ、蛍光標識抗体によりエクソソーム膜タンパク質の種類や量を計測する方法を確立する。蛍光標識抗体が高価であるため、その費用として 40,841円 を使用する。
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