昨年度までは、申請者が開発したエクソソームの膜融合アッセイの原理を解明してきた。人工細胞膜とエクソソームが膜融合する際、人工細胞膜の構造が変調し、それに伴いグラミシジンの膜への包埋量が増加する。結果として、見かけ上、チャネル電流の値が増加することを明らかにしてきた。当該年度では、この膜融合を制御するための実験条件を検討した。生体試料中には、様々な細胞から分泌されたエクソソームが混在しているので、ある程度、エクソソームと人工細胞膜の膜融合に選択性を持たせることが、センシングには重要になってくる。5 種類の細胞から分泌されたエクソソームを対象とし、pH 条件や人工細胞膜組成をかえて、膜融合の効率を調べた。たとえば、ヒト胎児の腎由来の細胞株(HEK293) や乳がん細胞株 (MCF-7) から分泌されたエクソソームでは、pH が低いほど、膜に取り込まれやすく、ヒト前立腺癌細胞株 (PC-3) では pH により膜融合に大きな差が見られなかった。また、人工細胞膜内におけるコレステロール量が増えると、膜融合効率が上昇することが分かった。エクソソームの膜融合を pH やコレステロール量で自在に制御できることが分かってきた。生体内においても、細胞とエクソソームの膜融合は pH や細胞膜組成により制御されているものと考えられる。一方、カチオン脂質で人工細胞膜を作製すると、膜融合の選択性が損なわれてしまうことが分かった。これは、静電相互作用が膜融合のトリガーになっていることを示唆している。MCF-7 や HEK293 を培養し、その細胞を人工生体膜近傍に接着させ、分泌されたエクソソームの膜融合を検出することにも成功した。また、膜融合アッセイ法において、膜融合後の人工生体膜を抗体で処理することで、 エクソソームの膜タンパク質である CD63 を検出できた。
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