研究課題/領域番号 |
18K05184
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
森田 耕太郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (70396430)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノドット |
研究実績の概要 |
カーボンナノドット (CND) は有機化合物や炭素系素材を原料として、加熱分解法や電解法などの多様な合成方法で得ることができる。比較的容易に合成が可能であり、安定な発光特性を示すことから既存の蛍光分子や半導体量子ドットを代替することを目的とした基礎検討や応用例が報告されているが、原料および合成方法と得られた CND の発光特性の関連性については解明されていない部分が多い。原料物質に窒素や硫黄を含む有機物からの合成によってヘテロ原子がドープされた CND は、発光量子収率が 0.4 程度まで向上することがここ数年の研究から認められるようになった。そこで、本研究ではヘテロ原子を含む原料としてアミノ酸類の元素組成に着目し、元素組成が異なるアミノ酸類から合成した CND の発光特性の比較検討に取組んだ。CND の合成には、前年度から継続して電気炉加熱分解法を採用した。CND の主原料として、前年度までにグルタミン酸を原料とした CND についての合成温度および反応時間で得られた知見を元に、窒素を含有する 5 種のアミノ酸類を選択した。電気炉加熱法における加熱温度と加温時間は前年度までに確立した条件で一定とし、異なる窒素含有率のアミノ酸類から合成した CND の吸収および発光スペクトル測定に基づいた系統的な発光特性評価を行った。前年度までに一定の成果を見いだした CND の発光強度増大に引き続いて、CND の発光特性改善において大きな課題である発光極大波長の長波長化を実現する合成条件の探索に取組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アミノ酸類 1 g と水 10 mL をテフロン耐熱密閉容器 (60 mL) 中で混合し、電気炉加熱により原料を加熱分解させた。粗生成物を水に再分散させ、吸引ろ過と遠心分離によって CND の分散液を得た。検討した 5 種のアミノ酸(アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、リシン)から合成した CND において、吸収極大波長は 280-330 nm, 励起極大波長は 330-350 nm, 発光極大波長は 380-490 nm の範囲に分布することがわかった。検討したアミノ酸類のうち、リシンから合成した CND は発光極大波長が 490 nm となった。前年度までに主に取り組んできたグルタミン酸の系では発光極大波長は 400 nm 前後であったことから、原料組成が CND 発光波長の長波長化に寄与することを示唆する結果となった。一方で、フェニルアラニンやプロリンなどの芳香族アミノ酸からの合成では、CND 生成が確認されなかった。これにより電気炉加熱による炭化と CND の生成には、原料の熱安定性と構造安定性が寄与していることが示唆された。また、グルタミンを原料とすることで、発光極大波長は 380 nm と短波長であるものの、発光量子収率にして 0.8 を越える高輝度 CND が得られることが確認された。以上の結果から、原料の元素組成が CND の発光特性に影響を与えること、検討した原料のうち融点が低く直鎖構造を有するアミノ酸類において合成収量が多く発光量子収率が増大することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は 5 種のアミノ酸類を原料として電気炉加熱分解法による CND の合成における加熱条件について精査し、原料アミノ酸類の組成と熱的安定性が与える CND の合成収量と発光量子収率への影響についての指針を得た。CND の発光特性改善における、発光波長の長波長化と発光強度の増大においてそれぞれ適した原料組成が存在することが示唆された。現段階では、長波長化と発光強度の増大を同時に実現する合成条件の探索については未着手である。そこで次年度は、高輝度化が確認されたグルタミンの系における長波長化に取り組み、本年度で得られた加熱条件の成果を加味しつつ、原料中の炭素含有比率による合成収量と発光量子収率への影響を明らかとする。これと並行して長波長化が確認されたリシンの系における合成収量および発光強度の増大を実現する CND の合成における加熱条件の影響についても検討し、CND の発光特性におよぼすヘテロ原子の効果についての基礎検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】研究成果発表のための追加実験データ(電子顕微鏡観察の受託分析と発光量子収率測定)の必要性が生じたが、令和 2 年度内に済ませることができなかった。これらの追加実験を実施するための期間および受託分析を依頼するための費用を確保する目的で残額を次年度使用額とした。 【使用計画】受託分析の費用を確保するとともに、残額は消耗品の購入にあてつつ研究費を有効に執行する。
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