研究課題/領域番号 |
18K05185
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
田代 充 明星大学, 理工学部, 教授 (40315750)
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研究分担者 |
吉村 悦郎 放送大学, 教養学部, 特任栄誉教授 (10130303)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / 標的タンパク質 / フッ素化合物 / 核磁気共鳴 / 選択的検出 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、標的タンパク質と結合するフッ素化合物(リガンド)の検出において、フッ素原子(19F)をマーカーとして、高感度および選択的に検出できる核磁気共鳴法(NMR)の開発を目指している。分子間相互作用に関与するリガンド中の部位をフッ素原子に着目して検出し、水素原子核と併せて原子レベルで解析する分析手法である。 タンパク質にはヒト血清アルブミン、フッ素化合物にはジフルニサル、フレロキサシンを使用し、(1)リガンドのみ、(2)リガンド+標的タンパク質、の2種類の試料を調製した。試料(2)について1H照射-1H検出飽和移動差(STD)スペクトルにより複合体形成を確認し、1H照射-19F検出STDにより、結合するリガンド中のフッ素核を直接検出する。軽水溶液(95% H2O+5% D2O)においても、レシーバーの飽和を気にせずに選択的検出が可能という利点を有する。 高感度化を目指して、タンパク質を選択照射する1Hパルスの検討を行ったところ、メチル基領域の照射(0.4-2.0 ppm)では、Gaussian, およびQ3パルスの使用により高感度化が達成できた。水シグナルの選択照射では、Gaussianパルスが効果的であった。次に、Gaussianパルスを繰り返し回数を調整することで、タンパク質の選択照射時間を徐々に長くし、1H, 19Fシグナル強度の増加を観測した。照射時間とシグナル強度の相関から、どの1Hまたは19Fが結合に関与するか解析した。 1H, 19F-縦緩和時間(T1)をタンパク質1H選択照射のオン/オフでそれぞれ測定し、変化を観測した。DIRECTION法とよばれる手法であり、従来1Hにのみ適用されてきたが、本研究では19Fにも応用した。上述した1H, 19F-STD法と19F-DIRECTION法の併用により、より信頼性の高い結果が得られるものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト血清アルブミン-ジフルニサル複合体について、1H照射-1H検出飽和移動差(STD)スペクトル、1H照射-19F検出STD、1H/19F-DIRECTION法を行い、ジフルニサルの1H, 19Fのどの原子がヒト血清アルブミンとの結合に大きく関与するかを相対的に解析した。1H選択照射パルスにはGaussianを使用した。ヒト血清アルブミン-ジフルニサル複合体は単結晶X線構造解析されており、タンパク質1分子当たり3分子のジフルニサルが結合することが分かっている。各結合部位で結合様式が異なっているため、溶液状態でのNMR解析との比較は妥当ではないが、大まかな傾向としては類似した結果が得られた。 上述したSTD, DIRECTION法以外に取り組んだ分析手法について述べる。水シグナルを選択照射し、水の1H磁化をタンパク質の1Hに移動させ、更にタンパク質に結合するリガンドの1Hに移動させて検出するWaterLOGSY 法がある。この測定では、結合するリガンドの1Hシグナルと結合しない化合物の1Hシグナルが逆の位相で観測される。従って、結合の判別が容易である長所を有する。また、メチル基を有するリガンド分子の場合、タンパク質の選択照射領域にメチル基領域を選択できない制限が発生するため、水シグナルを選択照射するWaterLOGSY 法の汎用性は高いものと期待できる。この特徴を活かし、フッ素で検出するWaterLOGSY 法にも取り組んだ。結合しないフッ素化合物の19Fシグナルは下向きのシグナル、結合する19Fシグナルは上向きの逆位相に観測され、効果的な測定法であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
19F-DIRECTIONにおいて、19F-縦緩和時間のタンパク質の選択照射ON/OFFでの相違がかなり小さく、結果の解釈が困難であった。タンパク質とリガンドのモル比を数種類変えて測定し、有意差があると思われる結果が得られた。試料調製の依存性が大きいと判断されたため、今後、幅広いモル比の混合試料にも対応可能な手法の開発が望まれる。 ヒト血清アルブミン-フレロキサシン複合体の1H/19F-STD、1H/19F-DIRECTIONの結果を比較した際、結合に大きく関与する部位が異なる結果が得られた。当初、複数の分析手法を併用することにより、より信頼性の高い結果が得られるものと期待していたが、実際には異なる結果が示唆され考察が困難であった。STD法において、照射時間の変化に応じたシグナル強度をプロットした際、短い照射時間でのシグナル強度が小さく、SNの悪いスペクトルであったため、カーブフィッティングにより得られた数値の誤差が大きいものと解釈した。感度の点から、1H/19F-DIRECTION法の改良を行いたい。 NAなどの核酸の検出方法として、31Pによる測定法の開発を行う。DNAと相互作用するタンパク質には生化学的に重要なものが多く、31Pによる溶液状態でのDNAの検出は有意義なものと期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
核磁気共鳴装置に定期的に充填する液体ヘリウムが供給不足のため、価格が国際的に高騰している。更なる価格の高騰が予想されるため、次年度使用額が生じている。また、修理費用の発生も十分にあり得るため、次年度使用額が生じている。
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