研究課題/領域番号 |
18K05187
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 教授 (80373033)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 固相抽出 / ホウ素 / 分離技術 / 検出技術 / 樹脂開発 |
研究実績の概要 |
本研究は、科学技術を支える主要な元素である一方で排出規制物質でもあるホウ素化合物をターゲットとし、水溶性ホウ素の濃縮・分離・回収に優れ、なおかつ検出機能を兼ね備えた高次機能化樹脂の開発を目指す。この目的を達成するために、(A)研究代表者が近年開発した「キレート配位子-陽イオンハイブリッド機能樹脂」のさらなる機能性向上と、(B)このハイブリッド機能樹脂にさらにホウ素センシング部位を導入した「キレート配位子-陽イオン-センサー三元ハイブリッド機能樹脂」の創製について検討する。 上記の課題(A)については、機能部位の導入率を高める方法として、配位子部位と陽イオン部位のそれぞれのモノマーを合成し、それらを共重合させる合成アプローチを検討した。機能部位としては、これまでの研究で最大のホウ素捕集率を示したN-メチル-D-グルカミン(配位子部位)とトリエチルアンモニウム(陽イオン部位)を採用した。その結果、機能部位を連結したスチレンモノマーの合成は可能であるが安定した収率が得られず、現時点では共重合させるには至らなかった。一方、もう一つのアプローチとして、4-クロロメチルスチレンを共重合し樹脂担体とした直後に機能部位を段階的に化学修飾する方法を検討したところ、樹脂へのホウ素捕集率が従来よりも数十%程度高くなることがわかった。 上記の課題(B)については、研究代表者がこれまでに確立した段階的化学修飾法により、市販の樹脂担体に三つの機能部位を化学修飾した樹脂を試作した。その結果、上記(A)の樹脂と同じ配位子および陽イオン部位をもち、センサー部位としてアリザリンコンプレキソンをもつ試作樹脂において、ホウ素捕集とほぼ同期して樹脂色が変化することを定性的に確認した。したがって、本研究の多機能樹脂は水溶性ホウ素の分離と検出の両機能を両立させることが可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は『研究実績の概要』に記したように、(A)「キレート配位子-陽イオンハイブリッド機能樹脂」の機能性向上、および (B)「キレート配位子-陽イオン-センサー三元ハイブリッド機能樹脂」の開発の2つの検討内容について研究を進めている。 上記(A)については、各機能部位のモノマーを直接共重合させる方法が最も理想的に機能部位の導入率を高めることができると考えられるが、モノマーの合成条件の最適化に至っていない点で、進捗状況は遅れている。しかし一方で、市販の樹脂担体よりも多い化学修飾可能部位を有する樹脂担体を合成した後、各機能部位を化学修飾する方法により、従来よりも高いホウ素捕集率を有する樹脂を合成することができた。この点においては、進捗状況はおおむね順調であるといえる。 上記(B)は本研究で新たに提案した樹脂の高次機能化に関するものであり、研究期間の初年度である本年度は、この提案の着想点や分子開発の方針の妥当性を見極める必要があった。そこで、研究代表者が近年蓄積した市販樹脂担体への機能部位の段階的化学修飾法のノウハウを用い、キレート配位子、陽イオン、センサーの三つの機能部位を導入した樹脂を試作した。その結果、定性的ではあるがホウ素捕集と同期して樹脂色が明瞭に変化することを確認した。当初の予想では、ホウ素捕集部位の反応性とセンサー部位の反応性の差異により、ホウ素の捕集と検出機能にギャップが生まれると考えていた。しかし、試作樹脂はホウ素捕集と比色検出機能のギャップがほぼ見られず、予想外に本研究の最終目標に近い樹脂が合成できていると考えられる。この点では、当初の計画以上に進展しているといえる。 以上の進捗状況を総括すると、研究期間初年度としては、当初の計画に至らない部分もある一方、計画通りかそれ以上の結果が得られた部分もあるため、総じて「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の一つ目の内容である(A)「キレート配位子-陽イオンハイブリッド機能樹脂」の機能性向上の検討課題については、化学修飾可能な樹脂担体を先に合成した直後に機能部位を段階的化学修飾する方法をさらに最適化する。合成した樹脂担体に化学修飾された機能部位の量は、修飾可能な部位の理論量よりも低いため、合成・化学修飾条件を改良することにより、さらに導入率を向上させることが可能であると考えられる。一方、機能部位モノマーの共重合による機能部位導入率の向上に関しては、特に配位子モノマーの合成条件を最適化するとともに、モノマーの分子骨格の設計見直しも視野に入れて検討を進める。なお、モノマーを安定的に合成できた際は、共重合体の合成を試行する。なお、これまでの予備的検討において、機能部位のモノマーのみで共重合すると、固相抽出に適した樹脂としての性質が失われる危険性が示唆されているため、樹脂の性質を保持する担体用モノマーと機能部位モノマーの配合率の観点から検討を進める。 本研究課題の二つ目の内容である(B)「キレート配位子-陽イオン-センサー三元ハイブリッド機能樹脂」の開発の検討課題については、本年度有効性が示唆された試作樹脂について、合成条件の最適化を進めるとともに、ホウ素捕集における最適条件や他の共存物質による反応選択性への影響などの検討を進める。また、樹脂に捕集されたホウ素の脱着について、樹脂の繰り返し利用を含めた検討を進めるとともに、ホウ素捕集・脱着の際の樹脂色の変化の可逆性について検討する。さらに、各機能部位の導入率の向上と、より明瞭に樹脂色の変化を観測できるセンサー部位の導入率の最適化について、進捗状況に合わせて適宜検討を進める。 以上の検討課題と並行して、より優れたホウ素捕集・検出機能を有する機能部位の候補について継続的に探索を進めていく。
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