研究実績の概要 |
本研究では、構造未知のナノ物質に対して、その原子配置を解明するための二体分布関数の高度な解析アルゴリズムの確立を目的とする。本年度は放射光実験による標準データの収集や、二体分布関数を用いた未知構造解析について実空間法で取り組んだ結果をまとめた。年度の前半では、既存のX線回折法の未知構造解析について、直接法と実空間法を用いてシアノ錯体の構造解析を行い、論文にまとめた(CrystEngComm 2018, 20, 6713-6720)。さらにSPring-8の実験により、溶液中の酸化チタン原料や非晶質の二体分布関数の測定を行い、水溶液分散体の未知構造解析を行った(ACS Omega 2018, 3, 8874-8881)。複雑な系の二体分布関数の導出を行えるMaterialsPDFプログラムの開発が必須であり、論文の公開とともにプログラムの公開も行った。 さらに天然鉱物のマガディアイト(層状シリケートの1種)は未知構造物質であり、回折法では解析困難であったため、二体分布関数とX線回折の両面から未知構造解析を行い、世界で初めて解析に成功した(Chem Sci 2018, 9, 8637-8643)。この物質は層状であり、層内の原子ペアは周期性は結晶性を示しているが、面間では乱れており、回折法のみではアプローチできない材料である。二体分布関数を用いた構造解析の良い例となった。 既存の二体分布関数のプログラムには限界があったため、二体分布関数の高速シミュレーションのためのプログラムの開発を進め、標準試料についてシミュレーションを行えることを確認した。今後、数学的な処理により、効率的に未知構造解析にアプローチする手法の核になるプログラムにする予定である。このプログラムの開発とともに、実験データから原子ペアベクトルの導出プログラムの開発も進めているところである。
|