超微小なナノ物質は触媒などの様々な分野への応用が期待され、多くの材料の合成・開発が行われてきた。これらの材料は多くの場合は、バルクの材料と同じ原子配列を有しているが、少なからずバルクとは異なる原子配列を有するナノ物質も見つかっており、優れた機能は有しているが、原子配列が不明なため、そのような材料の機能の起源の本質を理解することが困難である。 材料の原子配列はX線回折法を用いて解き明かすのが、この110年の人類の伝統的かつ最高の手法である。しかし、回折法は良質な結晶である必要があるため、回折法で詳細を知るには小さすぎるナノ物質(ナノ結晶)の構造解析には適していない。二体分布関数(PDF)はこれらの制約に縛られずに、物質の構造情報が得られるため、ナノ物質の構造解析に適した手法である。 構造未知のナノ物質の解析に挑戦してきた本課題であるが、昨年度までにある程度の実証は成功し、論文発表を行ってきている。最終年度は、PDFの高速かつ正確なシミュレーションが可能なプログラムの作成を中心に行った。社会的な状況の変化により、実験研究より理論や計算研究の時間が中心であったため、この分野の今後も考えて、基盤技術の構築に専念した。既存のプログラムでは、昔の計算機に合わせて大幅に計算コストを下げるための近似を用いていたが、多元素系では正確性に問題があったため、その課題の克服から行った。 この基盤技術を安定なものにするとともに、未知構造解析のために、ベイズ最適などを扱えるようにプログラムの実装も行ってきている。原子数が少ない場合は、充分な解が得られることが分かっているが(論文発表Chem誌2020年)、原子数が多い場合、探索パラメータ空間が広すぎて収束しにくいことが分かってきている。当初計画した内容は充分に達成しているが、研究としては新たな課題が見えてきたという段階になった。
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