本研究では、極微量のアスタチン(At)分子の化学状態を測定できる新規な分析方法として、超高感度の分光分析法の開発に取り組む。放射性元素であるAtは扱える量が極めて少ないため、一般的な分光学的手法では測定できない。現在はクロマトグラフ法などの化学挙動から化学形が推定されているに過ぎない。そこで本研究では、超高感度分光分析法を新たに開発し、乾式分離精製法で得られる揮発性のAt化合物を世界に先駆けて同定することを目指す。 本年度、Atのキャビティリングダウン分光測定を行うための様々な実験を行った。まず、加速器を用いた核反応によって半減期7時間のAt-211を製造した。これを乾式蒸留法によって標的や不純物などから分離精製し、水溶液に溶解してストックとした。さらに水溶液を蒸発乾固してAtを石英製ボートに濃縮して実験試料とした。まず、この試料を製作済みのキャビティリングダウン測定装置にセットし、加熱して揮発させ、レーザー光路に導入した。しかし、Atはヨウ素と異なり、レーザー光路に到達しなかった。放射線測定の結果、Atはステンレス製配管に強く吸着してしまう事が分かった。そこで、別個に開発した熱クロマトグラフ装置を用いて、Atのテフロン配管への吸着性を調べ、テフロンには0度以上では吸着しない事を確認した。この条件でAtをレーザー光路に送り込んだところ、吸着せずに光路に到達することができた。次にレーザー光路用ガラス管を変更する事は難しいため、周囲を加熱することでガラス管への吸着を防止できた。さらに、ガス流速を1.0 mL/minに制御して流すことによりAtを吸着させることなく、光路上で10分程度保持することができるとわかった。この時間はAtの分光測定を行うのに十分な時間と考えられる。以上より、今年度、Atの分光測定を行うための準備が整った。今後、レーザーを用いたAtの分光実験を開始する。
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