研究課題/領域番号 |
18K05194
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
新澤 英之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10549893)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近赤外分光法 / 引張試験 / レオロジー / 高分子 |
研究実績の概要 |
プラスチック材料の機械強度は結晶、アモルファスといった分子~高分子構造に大きく影響される。とりわけ、機械的な変形下における結晶、アモルファス構造の動的な変位を調べることは、機械特性の発現メカニズムの理解、ひいては新規プラスチック材料の開発に極めて有益な情報を与える。 本研究では、近赤外光によって高分子の引張変形時の構造変化を分子レベルで検出する新規分析方法の開発を行った。具体的には、引張試験機と近赤外分光器を組み合わせた「レオ・オプティカル近赤外分光器」と呼ばれる分析システムを構築した。本システムでは、引張試験機によって機械的変形を受ける高分子試料に対して、およそ1200~2400nmの波長領域の近赤外光を照射し、各波長の光が試料によってどれくらい吸収されたのか、即ちスペクトルを数秒間隔で高速測定する。照射する近赤外光は偏光子によって引張方向に対して垂直方向に偏光されている。このため、高分子試料中の結晶やアモルファスが引張方向に配向すると、これらの構造は近赤外光を吸収できなくなる。したがって、高分子試料の近赤外スペクトル中に現れる結晶、アモルファス構造由来の吸収ピークは、引張変形が進むにつれて、徐々にピーク強度の減少を示す。つまり、引張によるスペクトルの形状変化を調べることで、結晶や非晶部分がどのような段階で配向していくのかを明らかにすることが可能となる。この原理を活用することで通常の引張試験機では検出ができないような分子レベルでの構造変化の分析が行える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでに開発した「レオ・オプティカル近赤外分光器」の問題点を解決するための新規計測システムの構築を図った。従来のレオ・オプティカル近赤外分光器は引張試験によって延伸変形を受けるフィルムもしくはダンベル状試料に、近赤外光を直径約1センチメートルに集光し、試料中央部へと照射していた。通常の引張試験では、引張による変形が顕著に生じる部位は必ずしも試料中央とは限らないために、変形部位と分光測定部位とが完全には一致しないという問題がしばしば生じた。この問題を解決するために以下の2点の改良を行い、機械変形が生じる部位の近赤外スペクトルを精密に行える近赤外分光器を開発した。 超小型熱風発生器により試料のごく一部、およそ1センチメートルの箇所に熱風を照射することで、試料の特定の箇所を選択的に変形しやすくすることを可能にした。 一方、上記の超小型熱風発生器を用いることで、測定試料の前後に配置された近赤外光源及び検出器部分にも過剰な熱が伝わるため、光源-検出器部分の距離を任意に調整できる分光器を作成した。 これらの機能を加えることとで、当初の目的であった変形部位の精密な近赤外分光測定が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の遂行によって、当初の目的であった変形部位の精密な近赤外分光測定が可能となった。今後は高分子材料の分析、評価にレオ・オプティカル近赤外分光法を適用し、応用展開を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費を用いて購入した装置の価格が当初よりも若干低くなったため。
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