研究課題/領域番号 |
18K05197
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
阿部 勝正 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (40509551)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 環境汚染物質 / 有機リン化合物 / 組換え大腸菌 / 微生物分解 / 環境保全 / 環境浄化 |
研究実績の概要 |
Tris(2-chloroethyl) phosphate(TCEP)などの塩素を含む有機リン化合物は,可塑剤や難燃材として世界各地で大量に用いられているが,難分解性であり,種々の毒性を有する.研究代表者はこれまで,含塩素有機リン化合物分解システム構築のため, TCEP分解菌 Sphingobium sp. TCM1を単離し,その分解メカニズムについて詳細に解析してきた.それら研究において,TCM1株によるTCEP分解には多大な時間を要すること,さらにその分解酵素は無機リン酸制限下でしか生産されないなど,実環境での使用を困難にする問題を有していることが明らかになった.本研究では研究代表者がこれまで同定に成功したTCEP分解酵素群を大腸菌で構成的に高生産させることで,無機リン酸の有無にかかわらず高機能を発揮する含塩素有機リン化合物分解菌を創出することを目的としている.令和元年度は以下の業績を上げた. 昨年度研究代表者が開発した有機リン化合物分解酵素群誘導発現プラスミドのプロモーター領域を,大腸菌で構成的に発現しているgapdh遺伝子のプロモーター領域と置換することで,誘導物質に依存しない有機リン化合物分解酵素群構成発現プラスミドを構築した.構築したベクターを大腸菌 DH5αに導入し,唯一のリン源として20 μM TCEPを含む完全合成培地を用いて,その生育と培養液中の分解産物(2-クロロエタノール, 2-CE)濃度を経時的に解析した.その結果,大腸菌の生育が見られるとともに,TCEPの分解産物である2-CEの増加が認められたため,今回構築した構成的発現ベクターを用いることで誘導剤未添加の場合においてもTCEPの分解が可能であることが明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が開発した有機リン化合物分解酵素群誘導発現プラスミドのプロモーター領域を,大腸菌で構成的に発現しているgapdh遺伝子のプロモーター領域と置換することで,誘導物質に依存しない有機リン化合物分解酵素群構成発現大腸菌の構築に成功した. 本結果は研究課題にあげている”無機リン酸制御解除細菌株創出”の基盤として非常に重要であり,交付申請書に記した研究計画に沿って,研究は進められていることから上記のように判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
前年度は誘導剤に依存せずにTCEPを分解可能な組換え大腸菌を創出することに成功している.今年度(最終年度)については構築した有機リン化合物分解酵素群構成発現大腸菌の最適TCEP分解条件を明らかにするとともに,宿主として用いる最適な大腸菌株を明らかにすることで,本研究課題にあげている”難分解性含塩素有機リン化合物を高効率で分解可能な無機リン酸制御解除細菌株”を創出する.具体的な内容を以下に示す. 1. 宿主として用いる大腸菌株の違いがTCEP分解効率に及ぼす影響 前年度有機リン化合物分解酵素群の発現に用いた大腸菌DH5αはクローニング用大腸菌であり,プロテアーゼ等が発現している.このことから,一般的なpET発現系に用いられるlonプロテアーゼ,ompT外膜プロテアーゼを欠損した大腸菌やレアコドンtRNA補充型の発現大腸菌を用い,その分解効率を詳細に解析することで,最も効率的にTCEPを分解可能な宿主を決定する.用いる大腸菌としては,一般的なタンパク質発現大腸菌である大腸菌BL21,レアコドンに対するtRNAを高発現させている大腸菌Rosetta株,発現したタンパク質のジスルフィド結合合成能が高い大腸菌Origami株を予定している. 2. 有機リン化合物分解酵素群構成発現大腸菌のTCEP最適分解条件の検討 構築した有機リン化合物分解酵素群構成発現大腸菌を用いて,最適培養条件(培地組成,培養温度,浸とう速度など)について網羅的に解析する.TCEP含有培地での培養培地を経時的に採取し,菌体の生育や代謝産物である2-CE濃度を測定することで分解速度を算出する.2-CEの抽出・分析ついては前年度と同様にガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて行なう予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた理由としては,前年度の遺伝子試薬の購入・DNA配列解析件数が当初予測より少なかったためである. 本年度に関しては大腸菌株の違いがTCEP分解に及ぼす影響などを網羅的に解析する予定である.また,構築した組換え大腸菌を用いたTCEP分解速度の解析においてはガスクロマトグラフィー質量分析計を多く使用する予定であることから,それら消耗品費が本年度不足する可能性も考えられる. 以上の事から,当該助成金については本年度請求した助成金と合わせて主に遺伝子組換え関連試薬や宿主大腸菌,分析関係試薬などの消耗品費として使用する予定である.
|