本研究では,藻類細胞を利用した有用金属の回収に資する知見を得ることを目的としている。特に藻類細胞内で生成される金属ナノ粒子の生成に着目し,放射光X線分析を用いて,その生成機構の解明を目指している。2020年度は,セレンに着目して研究を遂行した。 藻類やバクテリアなど生物積能を利用して排水の浄化を行う手法は,環境にやさしい技術として注目を集めている。規制項目に定められているセレンについても,高蓄積能を有するバクテリア等が報告されており,排水処理技術への展開が期待されている。本研究では,単細胞藻類Pseudococcomyxa simplexにおけるセレン蓄積機構に着目した。セレン化合物(セレン酸イオンおよび亜セレン酸イオン)を 植物細胞に添加し,細胞内に蓄積されたセレンの化学形態を明らかにし,添加化学種の違いが蓄積にどのような影響を与えるのか,明らかにすることを目的とした。 単細胞藻類P. simplexを採取し,調製したセレン酸水溶液あるいは亜セレン酸水溶液(pH 5.80,[Se] = 6~100 ppm)を30 mL添加した。一定時間振とう後に取り出した細胞を洗浄・凍結乾燥して,5 mm径の錠剤(試料量10 mg)に加圧成型した。蛍光X線分析法を用いて植物に取り込まれたSeの定量を行った。一方,Photon FactoryのBL-12CやBL-10Aにおいて,SeのK吸収端(12.6546 keV)のXAFS解析を行い,藻類に蓄積されたSeの化学形態について検討した。 藻類細胞に亜セレン酸イオンを添加すると,12時間経過後に急激にセレンの取り込みが増加した。いずれの試料においてもSeの還元が見られ,亜セレン酸を添加して20時間後にはセレンは0価にまで還元されていた。また,SEMにより,細胞内においてセレン(0価)のナノ粒子(粒径数十nm)が確認された。
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