研究課題/領域番号 |
18K05210
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
竹中 康将 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (40392021)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオベースポリマー / 精密重合 / アクリル樹脂 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、桂皮酸エステル、カフェ酸エステルなどの非可食性バイオマスから誘導可能なβ位に芳香族置換基を有するα,β-不飽和カルボン酸エステル(含芳香族アクリルモノマー)の高効率、高選択的かつ高立体規則的な重合法を開発し、従来のアクリル樹脂(PMMA)の性能を凌駕する様な非可食性バイオマス由来の新規な高機能・高性能バイオベース含芳香族アクリル樹脂の合成技術を確立する事を目的とした。(1)高収率、高選択的かつ高立体規則的に二重結合部位で単独重合が進行する開始剤及び触媒の探索を行い、様々な分析手法を用いて、重合メカニズム及びポリマー主鎖の立体規則性が決定される要因について考察を行った。(2)(1)の結果を基にして、含芳香族アクリル樹脂を高効率で得る触媒システムを構築を検討した。 平成30年度は、含芳香族アクリルモノマーの二重結合部位で重合が進行する過程で、ポリマー主鎖骨格の立体規則性がどの様に制御・構築されていくか、並びに、開始剤や触媒の化学構造がどの様にそれらの立体規則性の発現に影響を与えるかについて考察した。具体的には、10量体以下のオリゴマーを合成した後、分取液体クロマトグラフィーを用いて分画分取し、NMR、MALDI-ToF-MS、単結晶X線結晶構造解析などを用いて、それぞれのオリゴマー主鎖骨格の立体規則性について解析を行った。同時に、連鎖移動反応及び重合が停止する様な副反応(環化反応など)についても考察を行い、開始剤及び触媒の構造によって、生成するオリゴマー主鎖骨格の立体規則性が決定される要因について考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、桂皮酸メチルを含芳香族アクリルモノマーとして用い、含芳香族アクリルモノマーの二重結合部位で重合が進行する過程で、ポリマー主鎖骨格の立体規則性がどの様に制御・構築されていくか、並びに、開始剤や触媒の化学構造がどの様にそれらの立体規則性の発現に影響を与えるかについて考察した。まず、桂皮酸メチルをモノマーとして用い、10量体以下のオリゴマーが得られる条件下で重合反応を行った後、分取液体クロマトグラフィーを用いて分画分取する手法の確立を行った。様々な分取条件を検討することにより、実際に、桂皮酸メチル4量体、桂皮酸メチル5量体および桂皮酸メチル6量体を単離する事に成功し、NMRおよびMALDI-ToF-MSを用いて解析を行うことで、目的の桂皮酸メチルオリゴマーである事を明らかにした。また、これらの各種オリゴマーの単結晶を作成することに成功し、単結晶X線結晶構造解析の結果から、それぞれのオリゴマー主鎖骨格の立体規則性を決定した。その結果、見出した重合システムでは、いずれのオリゴマーも同一の立体規則性でポリマー伸長反応が進んでいることが示唆された。また、これらの解析結果は、含芳香族アクリルモノマーの二重結合部位で重合が進行する事を示した世界で初めての例である。連鎖移動反応及び重合が停止する様な副反応(環化反応など)については、クロトン酸エステルを用いて考察を行い、開始剤及び触媒の構造によって、生成するオリゴマー主鎖骨格の立体規則性が決定される要因について有用な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
クロトン酸エステルを用いて、連鎖移動反応及び重合が停止する様な副反応(環化反応など)の速度論解析を行い、エステル置換基、開始剤及び触媒の構造が、見出した重合システムに与える影響について調べる。また、桂皮酸メチルやカフェ酸エステルなどを用いて、同様の速度論解析を行い、含芳香族アクリルモノマーの二重結合部位で重合が進行する過程で、芳香環上の置換基の大きさや電子的な要因が、ポリマー主鎖骨格の立体規則性の制御・構築対してどんな影響を与えるかについて考察を進めていく。得られた結果を精査し、収率60%以上かつ立体選択性80%以上で、重量平均分子量50 kg/mol程度の含芳香族アクリル樹脂を与える重合条件を見出す。この重合条件を基にして、スケールアップを検討し、一度に10 g程度合成する事が可能な重合システムへと改良を検討する。得られた含芳香族アクリル樹脂については、主鎖骨格の立体規則性、熱物性、光学特性、機械特性及び、分解性の評価を実施し、主鎖骨格の立体規則性と各種物性との関係性について考察を行う。熱物性評価は、TG-DTA、DSC、DMAを用い、ガラス転位点(Tg)、融点(Tm)及び熱分解温度(Td)を測定する。これらの測定において、 Tmが観測された場合は、偏光顕微鏡観察及びX線構造解析(SAXS, WAXS)を用いて、結晶性の評価を行う。光学特性評価は、有機溶剤に溶かした溶液を用いてキャストフィルム及び熱プレスによるフィルムを作製し、フィルムの曇り度(HAZE)を測定し、作製したフィルムの透明性、光透過性について評価を行う。機械特性評価は、熱プレスによるフィルムを用いて引っ張り試験を行う。分解性評価は、パイロライザーを用いて合成した含芳香族アクリル樹脂を熱分解し、分解生成物をGC-MSで測定し、化学構造を特定する事で、含芳香族アクリル樹脂のリサイクル性について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、主に物品費、旅費および人件費・謝金に予算を計上していたが、これまでの研究成果の学術論文への投稿を優先したこと(投稿中2件)、本研究課題を実施するために必要な消耗品類の購入がほとんど必要にならなかったことなどにより、次年度使用額が生じた。令和元年度(平成31年度)は、本研究成果を社会へと発信するために国内外の学会(IUPAC2019、触媒討論会、高分子討論会など)で成果発表を行う予定にしている。また、本研究課題で合成に成功している様々な含芳香族アクリルポリマーの大量合成を検討するために、従来の合成装置、重合システムの改修などを行う予定にしている。また、得られた各種含芳香族アクリルポリマーの熱的性質および機械物性を測定するために必要な物品類を購入し、各種含芳香族アクリルポリマーの評価を行っていく。さらに、得られた各種含芳香族アクリルポリマーの加工成形についても検討を進め、これまでのアクリル樹脂には見られなかった新たな機能・性能を見出すために、様々な測定を行うことを検討している。
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