研究課題/領域番号 |
18K05213
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石毛 亮平 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20625264)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 偏光蛍光発光 / リオトロピック液晶 / 全芳香族ポリイミド / せん断流動配向 / 含フッ素置換基 |
研究実績の概要 |
次にあげる4つの研究を遂行した.(1)ポリアミド酸エステル(PAE)前駆体のせん断流動配向膜の配向秩序の温度依存性について放射光(SR)X線を利用した温度可変・広角X線回折(WAXS)測定により評価した.(2)高配向,高結晶性のPAE膜を調製し,SR-WAXSに基づきPAEの分子鎖形態を評価した.(3)落射蛍光顕微鏡の紫外光源側に透過軸が水平および垂直となる可動式の偏光子を新たに組み込み,試料の回転を必要とせずに発光不変量の計測を可能とする系を新たに立ち上げた.(4)新たに構築した顕微偏光顕微鏡により蛍光発光の偏光度解析,およびそれに基づく配向度評価を実施した.(1)については,基板上に固定したPAE膜のフーリエ変換・偏光赤外吸収スペクトル(pFTIR)ではイミド化に伴い配向度の低下が観測された一方,剥離後の自己支持膜では配向度の低下が抑制されることをSR-WAXSおよびpFTIR測定に基づいて明らかにした.(2)についてはPAEが直方晶を形成し,分子鎖軸(c軸)に直交するab面が正方形であることを見出し,これはPAE鎖中のアミド結合部が通常と異なり芳香環から90度ねじれた形態をとることを示唆する.(3),(4)については,配向PAE膜を加熱イミド化して得られたポリイミド試料について,sCMOSの各ピクセルに対して計測された発光強度の偏光角依存性から各ピクセル位置における局所的な配向度を評価したところ,不均一性が認められた.すなわち,高配向のドメインの境界(欠陥部)では光散乱によって偏光解消が生じるために,視野全体の配向度を平均化した値はSR-WAXS,pFTIRで評価される配向度に比べて小さい値となることが判明した.特に紫外,可視の波長域においては散乱の効果が顕著であると考えられる.以上より,昨年度までに浮き彫りとなっていた各課題について概ね解決することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まで研究により,ヘキサフルオロイソプロピル(HFA)基を有するベンジジン誘導体と4,4'-ビフタル酸無水物(sBPDA)のp-ハーフエステル誘導体から合成されるポリアミド酸エステル(PAE)がN-メチルピロリドンの濃厚溶液中でスメクチック液晶を発現することを見出し,これを加温下で剪断を印可することで高度に一軸配向した固体膜試料を調製できることを確認した.前年度までフーリエ変換・偏光赤外吸収スペクトルpFTIRを用いた検討では,シリコン基板上に調製したPAEのせん断流動配向膜の配向度は熱イミド化過程で顕著に減少することが判明した.その後,剥離膜では配向低下は認められないことを確認し,この現象が基板上に固定された膜がイミド化に伴い体積収縮する際に配向軸と垂直方向に強い伸長応力が発生し,これが配向度現象の原因であると考えた.また,本研究のポリイミド(PI)の蛍光発光の発現には,紫外光照射時に電子供与性のジアミン部から電子受容性のsBPDA部への電荷移動を伴う遷移を抑制することが鍵となり,これには両部位が強くねじれた形態が必要と考えられてきた.PAEの配向結晶の解析より,少なくとも前駆体においてはこの強くねじれた形態を示唆する結晶構造が得られ,ねじれ形態の証拠の一端を捉えることができた.また,新たに構築した顕微偏光蛍光顕微鏡により,発光強度の不変量を各ピクセルに対して計測することが可能となり,これによりミクロンスケールの配向分布を評価することも可能になった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた実験結果に加えて,量子化学計算に基づく最安定構造の予測等を実施する.また,従来のポリイミド(PI)は非晶性のポリアミド酸(PAA)前駆体を経由して調製されるため構造の秩序性は乏しかったが,本系で用いるポリアミド酸エステル(PAE)前駆体は高秩序性のスメクチック液晶を発現し,これを経由して調製されるPIもまた秩序性の高い構造を維持することがSR-WAXSの検討から示唆された.光吸収・発光過程は分子の一次構造および局所形態のみならず,その充填様式(高次構造)にも強く依存するため,PAAおよびPAEから調製されるPI膜には異なる発光挙動が期待される.本年度は光物性と構造の相関を発光寿命測定等の手法を駆使して検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により当初予定していた学会,国際会議への参加等が中止となり,旅費を使用できなかったため.これらの経費は2021年度に開催される国際会議の参加費用と旅費,および論文出版費用(英文校正費を含む)に充てる計画である.
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