精密カチオン重合は、構造が明確なポリマーを生成する手法として開発され、次世代ポリマー材料創製のコア技術としてさらなる貢献が期待されている。しか し、空気中で金属触媒の取り扱いが困難であることに加え、ポリマーに残存する金属不純物が材料性能・機能の経時劣化を招くため、精密重合ポリマーの高品質 を長期保証する取り組みが重要である。一方、工業的観点からは、揮発性有機溶剤を代替する水媒体中での重合が好まれている。原子利用効率が高く廃棄物を出 さないモノづくりの観点から、官能基の保護を必要としない機能性ポリマーの合成も望まれている。本研究では、代表者が独自に開発したハロゲン結合を形成す る有機触媒による精密カチオン重合を発展させ、金属を用いず、水媒体中で、機能性ポリマーを簡便合成する。 過去に、イオン性ハロゲン結合触媒によるイソブチルビニルエーテル(IBVE)やパラメトキシスチレン(pMOS)のカチオン重合を行ったが、触媒の分解が認められたため、中性触媒による重合を検討した。キレート配位可能な三官能性触媒では、室温においても触媒が分解することなくIBVEの擬リビング重合が進行した(ジクロロメタン溶液)。DFT計算から、10.8 kcal/molの相互作用エネルギーが働くことがわかった。pMOSの重合には、トリフラート対アニオンを有するイオン性触媒が適切な活性を示した。次に、有機触媒によるメタルフリーカチオン重合を拡張する目的で、16族高周期元素のテルルを含むカルコゲン結合触媒の適用を検討した。トリフラート対アニオンを有するカチオン性ジテルロキサンは、IBVE単独でも重合してしまう一方、pMOSであれば、開始剤から重合が起こり、理想に近い分子量のポリマーが得られた。水存在下では、加水分解で生成するモノテルリウムカチオンが触媒として働くことが示唆された。
|