研究課題/領域番号 |
18K05218
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
檜垣 勇次 大分大学, 理工学部, 准教授 (40619649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 荷電高分子 / 薄膜 / 水和状態 / イオン / 中性子反射率測定 / 反射干渉顕微鏡 |
研究実績の概要 |
反射干渉顕微鏡(RICM)観察により牛血清アルブミン(BSA)との相互作用が弱いことが明らかにされたポリスルホベタイン(PSB)ブラシ膜について,水和状態の共存イオン選択性を中性子反射率測定に基づき評価した。 PSBブラシは,電解質を含まない純水中において水和膨潤するものの分子鎖が凝集してネットワーク状態の膨潤膜を形成しており,電解質水溶液中においてスルホベタイン基へのイオン凝集に起因する静電遮蔽効果により分子鎖が解離し,水界面の分子鎖密度分布が散漫な高度膨潤膜を形成することを明らかにした。イオン種とイオン濃度に応じてスルホベタイン基との相互作用や静電遮蔽効果が変調されることで,PSBブラシの水和状態に共存イオン選択性,イオン濃度依存性が発現することを明らかにした。さらに,面内分子鎖密度の高い基板側と,面内分子鎖密度の低い水溶液側で,PSBブラシの水和状態が2層に分離しており,分子鎖がより近接した基板側での水和膨潤の抑制,分子鎖密度の低い水溶液側での水和膨潤の増幅を明らかにした。水溶液界面で水和膨潤したPSBブラシ薄膜の,膜厚方向に不均一な分子鎖密度分布とそのイオン選択性,イオン濃度依存性を明らかにした初めての報告である。 RICM実験結果より,PSBブラシとBSA被覆粒子の相互作用は高イオン濃度で増幅されることが示されており,イオンが凝集しPSB膜のネットワークから解放された分子鎖が剛直であり,イオン濃度の高い生理環境において相互作用が高くなる傾向であることが示唆された。すなわち,膨潤鎖はより剛直に振舞うという予想外の結果が得られており,分子鎖水和状態と相互作用について新たな知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
荷電高分子薄膜における水和状態と相互作用を可視化するため,今年度はPSBブラシ膜のイオン選択的水和状態の実態解明に取り組んだ。研究代表者がRICM実験で明らかにした共存イオンとの相互作用による粒子と薄膜の相互作用ポテンシャル変化について,水溶液界面における薄膜の水和膨潤状態に基づいて考察することで,薄膜の水和状態と相互作用の定量的評価結果を関連付けることに成功し,防汚性や潤滑性の発現機構の解明に近づく研究成果が得られた。研究代表者の異動により研究体制に変更があったため当初計画以上の進展はなかったものの,研究計画の範囲内で研究が進捗しており,おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,化学構造の異なる荷電高分子ブラシ膜の水和状態と相互作用について,それぞれRICM観察とNR測定により高精度に定量的に計測することで,薄膜の水和状態やイオンの分子鎖近傍への局在化と相互作用状態をつなぐ普遍的原理の解明を目指す。具体的には,スルホベタインと化学構造の異なるホスホベタインを側鎖に含むポリホスホベタインブラシ膜について,水和状態と相互作用ポテンシャルのイオン選択性,イオン濃度依存性をPSBブラシ薄膜と同様に評価することで,側鎖荷電部の化学構造,すなわち荷電部の化学種と電荷,双極子の状態に応じて変調される水和状態と相互作用を可視化する。研究代表者は,University of Heidelberg 田中求教授(京都大学 特任教授)との共同研究を継続して行っており,RICM実験装置の共同利用による研究の推進を計画している。また,研究代表者の研究室に配属された学生を指導することで,研究の推進を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は,8月に九州大学から大分大学に転籍しており,研究設備や人手が不足したために実験を十分に行うことができず,交付された研究費の利用計画に変更が生じた。今年度は,研究室に学生が配属され,実験設備の整備や消耗品の購入が必要であるため,繰り越した研究費を使用する予定である。
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