研究課題/領域番号 |
18K05219
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森川 全章 九州大学, 工学研究院, 助教 (10363384)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 一次元配位高分子 / ロジウム二核錯体 / 精密合成 / シーケンス制御 / リビング重合 |
研究実績の概要 |
近年、非共有結合により重合した超分子ポリマーが刺激応答性や自己修復性などを示す機能性高分子として注目されている。しかし、超分子ポリマーの可逆的な結合形成と解離特性のため、精密合成法の開拓は困難とされてきた。本研究では動的な結合特性を示す超分子ポリマーであっても、モノマー配列や分子量を高度に制御する普遍的な方法論は存在し得るのかという学術的な「問い」に応えることを目的とする。 本年度は、金属錯体とピリジン系配位子をモノマーとし、これらが配位結合により重合した超分子ポリマー(一次元配位高分子)を取り上げた。具体的には、金属錯体として側鎖に多彩な官能基を導入でき、かつアキシャル方向へ重合可能な paddlewheel 型ロジウム二核錯体を用いた。嵩高いデンドロン側鎖を有するロジウム二核錯体(Rh2)、ならびに2つのピリジル基を有する二官能性軸配位子(L1)を合成した。クロロホルム中においてRh2とL1 を2:1のモル比にて混合した結果、ダンベル型の2:1錯体が定量的に得られることを見出した。ここへ先と異なる二官能性軸配位子(L2)を加えたところ、L1とL2により交互架橋された一次元配位高分子が得られた。また、一次元配位高分子の配位子交換反応は、非常に遅く、数日間に渡ってゆっくりと進行することから、交互架橋配位高分子を容易に単離することに成功した。さらに、TEM, AFM観察から、異なる軸配位子により交互架橋された配位高分子は、単独の軸配位子により架橋された高分子とは異なる集積構造へ自己組織化されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シーケンス制御された一次元配位高分子は、固体結晶中において散見されるが、現在の科学技術をもってしても分子構造から結晶構造を予測することは不可能である。また、結晶中の一次元鎖構造を溶媒に可溶化させ、高分子として扱うことは困難である。一方、従来の溶液中における一次元配位高分子は、金属錯体と配位子の単純なAB交互配列に限定され、また分子量を制御する方法論は存在しない。本研究では、金属-金属間結合を有するロジウム二核錯体の逐次的な軸配位特性に着目し、一次元配位高分子のモノマー配列や分子量、ならび鎖間相互作用に基づく組織構造をより高度に制御するための新しい方法論を開拓することを目標としている。 本研究当初の計画は、①異なる軸配位子により交互架橋した一次元配位高分子の合成、②非対称軸配位子が異方配向した主鎖型極性配位高分子の合成、ならびに③新しい環状錯体モノマーの合成とリビング重合による分子量の制御という3つの目標を掲げている。本年度は、異なる軸配位子からなるABAC型の新しい交互架橋配位高分子の合成手法を開発した。また、一次元鎖のモノマー配列に依存した鎖間相互作用により、集積構造が制御されることを見出した。次年度以降は、集積構造に依存した誘電特性などの物性評価を行う予定である。以上から、初年度において当初計画の一つを達成しており、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた知見を基にして、次年度は②非対称軸配位子が異方配向した主鎖型極性配位高分子の合成について取り組む。例えば、ピリジル基とシアノ基を併せもち、極性置換基を導入した非対称軸配位子を系統的に合成する。ピリジル基とシアノ基の配位能力の差、ならびにロジウム二核錯体の逐次的な軸配位特性を利用し、ピリジル基が軸配位した1:1錯体の形成を試みる。さらに、得られた1:1錯体の溶液を濃縮し、シアノ基を軸配位させることにより、高分子主鎖方向に分極した主鎖型極性配位高分子の合成を試みる。次に、電場印加を行いながら1:1錯体の溶液を濃縮することにより、非対称軸配位子が異方配向した極性高分子薄膜や極性高分子液晶を作製する。ここで、主鎖型極性配位高分子は、配位結合を切断しない限り、その配向状態が安定に維持されるものと期待できる。二次非線形光学(SHG)測定から配向特性を評価するとともに、熱などの外部刺激により軸配位の解離と再形成を制御し、SHG シグナル強度の可逆的なスイッチング機能を発現させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、化合物の合成を効率的に進めるために、合成・反応装置の購入を予定していたが、比較的、スムーズに必要化合物の合成を進めることができたため、当該装置の購入を見送った。そのため、助成金の一部を次年度に繰り越した。次年度は、必要に応じて合成反応を効率的に進めるための設備備品費や各種の物性評価に必要な消耗品費として、次年度分の助成金とともに使用する。
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