研究実績の概要 |
本研究は、セルロースやアミロースを出発原料とし、『水酸基を位置特異的に誘導体化した多糖誘導体の合成』と、『導入する置換基の精査による機能発現』に関する研究を目的とするものである。セルロースやアミロースなどの多糖の誘導体は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用キラル固定相として極めて高い能力を有しており、この高い能力は多糖の持つ高度に制御された規則的な高次構造があってこそ発揮される。 本研究では、グルコース環の3つの水酸基のうちの2,3位に異なる置換基を導入する方法についてセルロース、アミロース共に詳細な検討を行い、さらに2、3、6位の全てに異なる置換基を導入する方法を確立することを目指している。平成30年度はアミロースの2位のかさ高さを変えた誘導体を合成することで、2位のエステルのかさ高さが空間を制御し不斉識別において特異的な空間を作り出していることを見出した。 そこで令和元年度は、平成30年度に特異的な光学分割能を示したtert-ブチル基を2位に導入したアミロース誘導体について、残りの3,6位の構造を変化させた誘導体を合成し、光学分割能にみられる影響を調べた。2位を位置特異的にエステル化した後、3,6位の水酸基をフェニル基上の置換基として電子求引性のクロロ基、フルオロ基、電子供与性のメチル基を有するフェニルイソシアナートと反応させることで目的の2-エステル-3,6-カルバメート誘導体へと変換した結果、3,6位のフェニル基上の置換基の違いが光学分割能に大きな影響を与えることを見出した。分割した鏡像異性体によってはHPLCによる光学分割で溶出順序の逆転もみられたことから、3,6位のフェニル基上の置換基の性質が光学異性体が相互作用するカルバメート部位の極性に変化をもたらしたと推測される。
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