研究課題/領域番号 |
18K05232
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
鈴木 悠 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90600263)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シルク / フィブロイン / 水溶液 / エレクトロスピニング / 不織布 |
研究実績の概要 |
本年度は、未分解フィブロイン水溶液と分解フィブロイン水溶液からシルクフィルムの作製と物性評価、各水溶液の高濃度化、エレクトロスピニングによる不織布の作製と評価を行った。 家蚕繭から、異なる精練条件で未分解フィブロイン水溶液と分解フィブロイン水溶液を調製した。各フィブロインをシャーレに展開・乾燥してフィルムを作製し、ウォーターアニーリング法(WA)によりフィルムを不溶化した。各フィルムについて、固体NMR測定および引張試験を行った。固体13C CPMAS NMR測定による二次構造評価の結果、未分解フィルム・分解フィルムとも、不溶化処理によりβシート成分が増加し、不溶化処理後は約35%のβシート成分、約65%のランダムコイル成分と、βシート成分の割合はほぼ同じであった。引張り試験の結果、不溶化処理前フィルムは、未分解フィルムと分解フィルムで同程度の破断応力を示し、破断歪みは分解フィルムの方が未分解フィルムよりも30%大きな値となった。WAによる不溶化処理により、未分解フィルムは破断応力が20%大きくなった一方、分解フィルムは破断応力が50%に減少し、破断歪みが200%に増加した。このように、不溶化処理前は未分解フィルムと分解フィルムで機械的特性に大きな差はなかったものの、不溶化処理により機械的特性に大きな差が生じることが明らかとなった。固体NMRから、βシート成分の割合は同程度であることが示されていることから、機械的特性の違いは結晶サイズや配向の違いに起因していると予想される。 次に、エレクトロスピニングを行うためフィブロイン水溶液の高濃度化を行った。スピンカラムなど様々な濃縮方法を試した結果、高濃度PEG水溶液を外液に用いた透析により、10%w/wのフィブロイン水溶液の調製に成功した。現在、本水溶液を用いエレクトロスピニング法による不織布の作製と物性評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、蚕の紡糸システムの模倣によるフィブロイン製細胞足場材の開発である。昨年度は、蚕体内の液状絹に近い再生絹フィブロイン水溶液(未分解フィブロイン水溶液)の調製法の確立に成功した。そこで本年度は、この未分解フィブロイン水溶液と従来型の分解フィブロイン水溶液からフィルムを調製し各種物性評価を行った。その結果、不溶化処理後βシート成分の割合は同程度であるが、引張り特性が大きく異なることがわかった。分解フィルムは不溶化処理により破断応力が低下し破断伸びが約2倍に増加したのに対し、未分解フィルムは破断伸びは変化せず破断応力が約20%増加した。この結果は、フィブロイン分子サイズの違いが結晶サイズや分子鎖配向に影響を与えることを示唆する。フィルムにおいて未分解・分解における物性の違いが明らかになったため、現在、エレクトロスピニング法による不織布の作製と物性評価に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、未分解・分解フィブロインフィルムのβシート成分の割合は同程度であるにもかかわらず機械的特性が大きく異なることが明らかとなった。この原因を明らかにするため、XRD測定により結晶サイズの評価を行う。また、高濃度に調製した未分解および分解フィブロイン水溶液を用いて、エレクトロスピニング法による不織布の作製と各種物性評価を行う。今年度行った予備実験により、粘性の高い水溶液はスピニング時にダマができやすく、細く均質な繊維径の不織布が形成されないことがわかったため、エレクトロスピニングに適した低粘性のフィブロイン水溶液の調製方法を検討する。先行研究で、pHを上げることでフィブロイン分子間の静電反発により粘性が下がるという報告がなされているため、フィブロイン濃度・粘度・pHの関係を網羅的に評価し、最適な試料条件を明らかにする。これらのフィブロイン水溶液試料を用いてエレクトロスピニングを実施し、作製した不織布について、二次構造・結晶サイズ・機械的特性・表面観察等の物性評価を行い、フィブロイン水溶液から高物性なフィブロイン不織布の作製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度前半は、コロナ禍で研究室活動の停滞を余儀なくされたため、予定通りに実験が進まず次年度使用が生じた。次年度に繰り越した研究費は、フィブロイン調製のための試薬等の購入、本研究の成果を国際誌に論文投稿するための論文校正費用、本研究を一部実施している研究員の人件費等に使用する予定である。
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