研究課題/領域番号 |
18K05232
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
鈴木 悠 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90600263)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フィブロイン / エレクトロスピニング / 不織布 / 固体NMR |
研究実績の概要 |
本年度は、未分解および分解SF水溶液を用いて、エレクトロスピニング法による不織布の作製と各種物性評価を行った。まず、SF水溶液の濃縮を行った。20%ポリエチレングリコール(PEG)水溶液を外液としてSF水溶液を透析し、最終的に約10%w/wの濃縮SF水溶液を得た。昨年度行った予備実験により、粘性の高い水溶液はエレクトロスピニング時にダマができやすく、細く均質な繊維径の不織布が形成されないことがわかった。そこで、エレクトロスピニングに適した低粘性のSF水溶液の調製方法を検討した。先行研究により、pHを上げることでSF分子間の静電反発により粘性が下がるという報告がなされている。そこで、濃縮SF水溶液をpH10.5に調製したところ、pH7.0に比べて粘度が低下した。そこで、このようにして調製した未分解/分解フィブロイン水溶液を用いてエレクトロスピニングを行い、不織布を作製した。SEMによる形態観察の結果、どちらも直径500nm程度のナノファイバーからなる不織布が作製できた。
次に、固体13C CPMAS NMR測定により二次構造を評価した。AlaCbの波形分離から二次構造割合を求めたところ、未分解SF不織布はβシート構造43%、ランダムコイル構造57%、分解SF不織布はβシート構造50%、ランダムコイル構造49%であり、未分解SF不織布の方が、ランダムコイル構造が若干大きかった。次に引張試験を行い、機械的特性を評価した。その結果、未分解SF不織布は分解SF不織布に比べ、破断応力は4.3倍、弾性率は1.7倍、靭性は3.7倍であった。一方、破断歪みは未分解と分解でほぼ同じであった。これらの結果から、未分解SF不織布は分解SF不織布に比べ、高い機械的特性を有することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、蚕の紡糸システムの模倣によるフィブロイン製細胞足場材の開発である。昨年度までに、蚕体内の液状絹に近い再生絹フィブロイン水溶液(未分解フィブロイン水溶液)の調製法の確立に成功し、精練糸とフィルムについて、未分解SFと分解SFでの二次構造および機械的特性を比較評価した。 本年度は、未分解および分解SF水溶液を用いて、エレクトロスピニング法による不織布の作製と各種物性評価を行った。その結果、不溶化処理後βシート構造の割合はわずかに未分解SF不織布の方が低かったが、機械的特性は未分解SFの方が分解SFよりも極めて優れていた。この結果は、SFフィルムと同様、不織布においてもフィブロイン分子サイズの違いが結晶サイズや分子鎖配向に影響を与えることを示唆している。不織布において未分解・分解における物性の違いが明らかになったため、現在は、細胞を用いた未分解および分解SF不織布の生体適合性評価に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、未分解および分解SF水溶液から、エレクトロスピニング法にて不織布の作製に成功したため、細胞を用いた生体適合性評価を行う。これまでの報告で、カイコ体内から摘出した液状絹から調製したSFフィルムと、再生フィブロイン水溶液から調製したSFフィルムの生体適合性を比較したところ、液状絹SFフィルムの方が細胞親和性が高いという結果が得られている。液状絹はSF分子の分解が生じていないため、未分解SF水溶液と類似の性質を示すと予想され、未分解SF不織布は分解SF不織布よりも生体適合性に優れると期待される。SF水溶液から調製した未分解SF不織布の二次構造、機械的特性、生体適合性を明らかにし、細胞足場材に有効なフィブロイン不織布の作製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年7-10月に産休・育休を取得し、予定通りに進まない実験が一部生じたため、次年度使用が生じた。次年度に繰り越した研究費は、フィブロイン調製のための試薬等の購入、本研究を一部実施している研究員の人件費等に使用する予定である。
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