研究実績の概要 |
連鎖移動剤にシアノ基含有ペルフルオロアルキルを用いた,テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体は極めて安定なゴム原料であり,シアノ基部位を利用した架橋によってフッ素ゴムが合成されている。この際,共架橋剤には脆弱な炭素水素系置換基を有する化合物が用いられるため,得られるゴムにも共架橋剤に由来する脆弱な炭化水素基が存在し,この部位からの分解が起こる。ゆえに,そうした脆弱な構造を持たない,究極の共架橋剤の開発によるフッ素ゴムの耐性向上が求められている。本研究では,架橋部位にペルフルオロアルキレン基と芳香環しか持たない超耐性フッ素ゴムの創製に挑んでいる。 昨年度は,架橋反応のモデル反応として,アルキン2分子とニトリル1分子間の交差三量化反応を調査した結果,二価のコバルト触媒/金属亜鉛系の条件を用いることで,反応が極めてスムーズに進行することを明らかにした。この反応では,アルキン2分子とコバルト(I)から,コバルタシクロペンタジエン錯体が生成し,この錯体にニトリルが配位して反応が進行すると思われる。ゆえに,この錯体を単離し,ゴム原料に混練りして反応させることで,架橋反応を進行させることが可能となる。そこで今年度は,この錯体の単離精製について検討した。その結果,コバルト触媒と3,3,3-トリフルオロ-1-(4-クロロフェニル)-1-プロピンの反応から,3,4-ビス(4-クロロフェニル)-1,1,1,6,6,6-ヘキサフルオロヘキサ-2,4-ジエンの(2E, 4E)体のみが得られた。この立体化学のみが発現したことは,系内でコバルタシクロペンタジエン錯体が生成していることを証明している。また,各種構造のアルキンを用いた場合も,同様の立体化学を持った化合物が得られたことから,実際のゴム原料に使用する予定のアルキン誘導体にも適用可能であることが予想された。
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