研究課題/領域番号 |
18K05235
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
本柳 仁 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 助教 (10505845)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 精密重合 / パイ共役ポリマー / リビングカチオン重合 / 特異構造高分子 |
研究実績の概要 |
本研究では、“化学構造”と“分子の大きさ”の両方を認識し呈色するケミカルプローブの合成を目的とし、側鎖に機能性官能基を有する新規ブラシ状パイ共役高分子の合成を検討している。その際、水系溶媒をはじめとする多様な溶媒にポリマーを溶解可させるために、第一段階として両新媒性側鎖を有するブラシ状パイ共役ポリマーの合成に着手した。本年度の成果として、両新媒性ポリマーであるオキシエチレン部位を側鎖に有する水溶性ブラシ状パイ共役高分子の合成に成功している。 まず、新たに開発した潜在的な炭素カチオン源となる官能基を全ての側鎖に有するパイ共役高分子重合開始剤を合成した後、得られたパイ共役高分子側鎖の重合開始点からビニルエーテル(VE)モノマーとしてオキシエチレン鎖からなる両新媒性モノマーを用いてリビングカチオン重合することで水溶性パイ共役高分子の合成に成功した。さらに、得られた水溶性パイ共役高分子が側鎖ポリマーの“分子の大きさ”に依存し主鎖ポリマーの吸収色が変化し、溶液の色がオレンジから赤へと変化することを見出した(submitted)。 続いて、“化学構造”を認識するためにホウ酸誘導体を導入したパイ共役高分子の合成にも挑戦した。上述で示した合成手法を利用することで簡便に合成することができると期待し、VE部位を担持したホウ酸誘導体をモノマー(PBVE)のリビングカチオン重合を検討した。しかし、重合条件下においてPBVEのホウ酸エステル部位が反応してしまい、新たな合成手法を開拓する必要があった。そこで、アルキン担持VEモノマーを新たに分子設計し、リビングカチオン重合を適応することで側鎖にアルキニル基を有するポリマーを精密合成することに成功した(Journal of Polymer Science, part A: Polymer Chemistry 2019, 57, 681-688)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、本研究の進行にあたり次の三つのステージを設置している。[1]水溶性ポリマー鎖に覆われたパイ共役高分子の合成。[2]ホウ酸誘導体を導入したパイ共役高分子の合成。[3]糖類を用いた基礎的な分子認識特性評価。そして、2018年度には[1]を重点課題としてパイ共役高分子重合開始剤を用いて機能性ビニルエーテルモノマーのグラフト重合への適用を検討した。その結果、研究実績でも触れている通り、水溶性パイ共役高分子の合成に成功した。さらに、得られた水溶性パイ共役高分子が側鎖ポリマーの“分子の大きさ”に依存し主鎖ポリマーの吸収色が変化し、溶液の色がオレンジから赤へと変化することを見出している(submitted)。そして2019年度の重点課題である、次のステージの検討にも着手している。当初の計画では、ホウ酸誘導体を導入したVEモノマーを重合する予定であったが、カチオン重合条件下でモノマーが反応してしまうことが明らかとなったため、合成計画を変更した。そして、新たにアルキニル基を有するVEモノマーを分子設計し、得られたモノマーの重合挙動を詳細に検討した結果、リビングカチオン重合に適応可能であることを明らかにしている(Journal of Polymer Science, part A: Polymer Chemistry 2019, 57, 681-688)。さらに得られたポリマーのアルキニル基にクリック反応を用いてホウ酸誘導体を導入することが可能であり、[2]ステージであるホウ酸誘導体を導入したパイ共役高分子の合成手法について確立することができた。このように当初設定したステージを一つずつ確実に解決しており、想定以上の成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の実験計画通り2019年度は実験計画における[2]ホウ酸誘導体を導入したパイ共役高分子の合成および[3]糖類を用いた基礎的な分子認識特性評価の課題を集中的に実施し、得られる新規パイ共役高分子を用いて、種々の糖類の添加による吸収の変化を検討する。従来の検討から、多数のポリマー鎖で覆われているため嵩高い分子と相互作用することで立体的な反発が生じ、パイ共役高分子の構造変換が誘起され、パイ共役高分子の吸収が410 nmから460 nmへと変化することを明らかにしている。そこで、合成した水溶性パイ共役高分子の水溶液に対し、糖類を添加することでパイ共役高分子由来の吸収が変化するか確認する。さらに、吸収変化の度合いからパイ共役高分子と糖類との会合定数(相互作用の強さの指標)を求める。[2]において、ホウ酸誘導体の導入量を精密に制御し、ターゲット分子との会合定数を算出することで、分子構造と分子認識能との関係を明らかにし、糖類を認識するのに最適な分子構造を検討する。さらに、パイ共役高分子と糖類との相互作用を明らかとするために、対象化合物として共有結合的に糖鎖を導入したパイ共役高分子を合成し、糖鎖の導入による吸収の変化や物性の変化を詳細に検討する。
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