研究課題/領域番号 |
18K05250
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
吉岡 太陽 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 研究員 (90596165)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シルク / 再生シルク / 高タフネス繊維 / 構造制御 / 構造解析 / 紡糸 / 脱石油材料 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、絹糸(シルク)を溶解させて得られるシルクタンパク溶液(再生シルク)から天然シルクの力学特性を凌駕する強くタフな再生シルク繊維を創製するための構造制御技術を確率することにある。目的達成に向けて、課題①:様々な天然のシルク繊維について、その構造と力学特性との因果関係を調べ、シルクの強くタフな性質の鍵となる構造的な要因を明らかにし、課題②:カイコや他の絹糸昆虫がシルクタンパク質を糸として吐糸する過程で、①で明らかにした構造がどのように形成されるのか、その構造形成機構を明らかにし、課題③:②で明らかとなった構造形成機構を人工的に再現するための紡糸装置を考案する。 課題①:初年度(平成30年度)は、特徴の異なる力学特性を与える4種類の絹糸昆虫(カイコ、野蚕(ムガ蚕とエリ蚕)、およびミノムシ)のつくる糸について、構造と力学特性との関係を明らかにした(学会発表 6件、論文発表 2件)。 課題②:それぞれの構造形成機構を解明するため、シルクタンパク溶液内でのタンパクの振舞い、ならびに構造形成機構を調べる研究についても着手し、異なるシルク間での、構造形成機構の共通点と相違点が分かり始めてきた(未発表)。引き続き、各種シルクの構造形成機構について調べ、強くタフなシルクの力学特性の鍵となる構造ならびにその形成機構を明らかにする。 課題③:再生シルクから強くタフな繊維を造るための紡糸装置の設計ならびに製作を開始した。ただし、初年度の製作状況としては、紡糸装置としての基本的なセットアップに留まっており、強度とタフネスの向上に直結する構造制御技術については、初年度に①および②の課題より得られた知見、ならびに次年度以降で得られてくる知見に基づき、随時改良・更新する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題①:特徴の異なる力学特性を与える4種類の絹糸昆虫(カイコ、野蚕(ムガ蚕とエリ蚕)、およびミノムシ)のつくる糸について、構造と力学特性との関係を調べた。X線構造解析により、階層構造を解析し、ムガ蚕とミノムシについては、タンパクのアミノ酸配列と階層構造との関係までを定量的に明らかにした。また、繊維を引張った際に生じる階層構造の変形挙動を、放射光X線を用いた時分割解析により追跡し、力学挙動と階層構造の変化との因果関係の解明に成功した(学会発表 6件、論文発表 2件)。課題①の進捗は順調である。 課題②:カイコや野蚕、ミノムシなどの絹糸昆虫が、シルクタンパクの水溶液を糸として吐糸する過程で、タンパクがどのように構造を形成するのか、その過程を調べた。異なるシルク間での、構造形成機構の共通点と相違点が分かり始めてきた。課題②の進捗は順調である。 課題③:再生シルクから強くタフな繊維を造るための紡糸装置の設計ならびに製作を開始した。当初の計画通り、有機溶媒であるHFIP(1,1,1,3,3,3-hexafluoro-isopropanol)を溶媒とする紡糸系となっている。溶媒にHFIPを用いる理由は、カイコシルクタンパクにヘリックスを形成させるためである。課題①、②より、カイコ以外のシルクでは、アミノ酸配列にポリアラニン連鎖領域を有し、水溶液系でヘリックスを形成し、さらにヘリックス鎖の自己組織化により秩序性配列構造を形成することが明らかとなった(未発表)。この、自己組織化秩序構造形成こそが、その後の吐糸過程における高配向βシート結晶構造形成の鍵であると考えられることから、HFIP溶媒による強制的なヘリックス形成と、自己組織化秩序構造形成の誘導を通し、強くタフな繊維構造の制御が可能となる紡糸機構を組み上げているところである。課題③の進捗は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
課題①については初年度でほぼ目標が達成されており、2年目以降は、課題②と③を重点的に進める。とくに、課題②では、シルクタンパクがどのように繊維構造を形成するのか、構造形成機構の解明に近づきつつあるため、2年目は、課題②の達成に力を入れる。シルクタンパクの構造形成は、静置場での構造形成と、延伸場での構造形成に分けて考える必要がある。後者の延伸時構造形成機構解明において、放射光X線を用いた時分割追跡が有効であると考えており、2年目の後期での測定を目指し、放射光X線施設利用のための課題申請を積極的に進める。課題②の遂行と平行して、課題②で得られる知見を課題③の紡糸装置デザインに随時フィードバックし、構造制御の精度向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、課題③で必要となる紡糸装置の基本セットアップの構築を、業者に特注で製作依頼することを予定し、大まかな見積も得られていた。しかし、実際に具体的なデザインを設計し、予算見積もりを行ったところ、当初の予定を大幅に上回ることが明らかとなったため、自作製作へと方針を転換した。一方、課題②の研究を推進する過程で、当初の計画には含まれていなかった偏光顕微鏡を用いた観察が不可欠となったため、初年度に予定していた装置製作の予算を、2年目の偏光顕微鏡の購入予算として変更した。予算使用計画において、その他の大きな変更は現段階で生じていない。
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