研究課題/領域番号 |
18K05251
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
樋口 亜紺 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 客員研究員 (30189766)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 幹細胞培養 / 生体適合性材料 / オリゴペプチド / 分化 / 細胞培養基板 / 細胞接着因子ペプチド / 弾性 |
研究実績の概要 |
幹細胞の運命(多分化状態の保持、特異的組織細胞への分化)の制御は、幹細胞培養基板の物理的特性(剛性/弾性)並びに生物化学的特性(細胞接着部位ペプチドの種類並びに表面密度)に依存する。そこで本研究では、(1)物理的因子と生物化学的因子双方を考慮した幹細胞培養用基板を設計し、iPS細胞の多分化能を維持した状態での大量培養の可能性を検討するすること、並びに、(2)適切な組織細胞への分化効率の高い最適な基板の剛性/弾性並びに最適な細胞接着因子ペプチドあるいは細胞外マトリックス(ECM)の判明を、本研究の目的とした。 (a)様々な剛性 /弾性を有する細胞培養基板の調製 ポリビニルアルコール主鎖中にカルボン酸を有するイタコン酸が数%含まれているPVA-IAより様々な剛性 /弾性を有するハイドロゲルを架橋反応時間を制御して作成した。調製されたPVA-IA細胞培養基板の剛性/弾性は、原子間力顕微鏡を用いて計測した。さらに、PVA-IA厚膜を用いてレオメーターより測定した値を比較検討した所、原子間力顕微鏡で測定した値は、レオメーターで測定した値より1桁高い値を示した。そこで、弾性率のPVA-IA膜厚依存性を原子間力顕微鏡で計測した所、膜厚が薄ければ薄いほど、弾性率は高くなり、基板であるポリスチレンの弾性率の影響を受けていることが明らかとなった。 (b)ナノセグメント固定化細胞培養基板上におけるiPS細胞の作成と培養 ナノセグメント(ECM、細胞接着因子ペプチド)固定化細胞培養基板を調整し、この基板上でヒトiPS細胞の作成と培養を行った。iPS細胞の培養には、24KPa前後の弾性基板が最も適していたが、iPS細胞の作成には、より柔らかな10kPa前後の弾性基板が適していることを明らかとした。いかなるECM並びに細胞接着因子ペプチドがヒトiPS細胞の作成並びに培養に適しているかを評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、様々な剛性 /弾性を有する細胞培養基板の調製を行い、原子間力顕微鏡で測定した弾性値と膜厚なハイドロゲルでレオメーターにより測定した弾性値とを比較検討することができた。薄膜では、基板の弾性率の影響を受けることが明らかとなった。さらに、ナノセグメント(ECM、細胞接着因子ペプチド)固定化細胞培養基板を調整し、この基板上でヒトiPS細胞の培養を行うことが可能であった。iPS細胞の作成並びに培養に最適な剛性/弾性を有する細胞培養基板を調製することに成功した。現在、いかなるECM並びに細胞接着因子ペプチドがヒトiPS細胞の培養と分化に適しているかを評価している。ビトロネクチン並びにビトロネクチン由来のオリゴペプチドを固定化し、さらに弾性率を最適化させた基板(ハイドロゲル)は、iPS細胞の培養に適していたが、心筋細胞への分化には不向きであった。一方、ラミニン-521並びにラミニン-511を固定化し、さらに弾性率を最適化させた基板(ハイドロゲル)は、iPS細胞の培養に適しており、さらに心筋細胞への分化にも最適な基板であった。現在、間葉系幹細胞へのiPS細胞の分化、並びに網膜色素上皮へのiPS細胞の分化における最適な剛性 /弾性を有し、さらに最適なECM並びに細胞接着因子ペプチドを有する基板(ハイドロゲル)を作成中である。 さらに、本研究の一部は論文に執筆してBiomaterials(Effect of cell culture biomaterials for completely xeno-free generation of human induced pluripotent stem cells, Biomaterials, 230 (2020) 119638)並びにBiomaterials Scienceに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
最適な剛性/弾性を有するPVA-IA基板上に、様々な細胞外マトリックス並びに細胞接着因子ペプチドを固定化させた、ナノセグメント固定化細胞培養基板を調製する。このナノセグメント固定化細胞培養基板上に間葉系幹細胞ならびにヒトiPS細胞を培養し、網膜色素上皮、骨芽細胞、インスリン産生細胞並びにドーパミン産生細胞への分化誘導を行ない、これらの幹細胞分化誘導に最適なナノセグメント(ECM並びに細胞接着因子ペプチド)の同定を行なう予定である。 具体的には、ヒトiPS細胞よりEmbryonic body(EB)を形成させる。EBを酵素消化法を用いて、単細胞にほぐした後に上記で調製した様々な剛性 /弾性を有するナノセグメント固定化細胞培養基板上に播種して培養を行う。このとき、骨芽細胞分化培地を用いて細胞培養を行う。培養1週間後、2週間後、3週間後にAlkali phosphatase活性並びに骨芽細胞固有遺伝子発現をRT-PCR法並びにqRT-PCR法により評価する。さらに、3週間後にAlizarin red染色、von Kossa染色によりミネラル形成を評価する。ドーパミン産生細胞への幹細胞(MSC)の分化は、Morizaneらの方法(J. Neurosci. Res. 88, 3467 (2010))に準じて行う。ドーパミン産生能はElisaキットを用いて定量を行う。インスリン産生細胞への幹細胞(MSC)の分化は、Linらの方法(J Biomed Sci 2010, 17:56) に準じて行う。インスリン産生能はElisaキットを用いて定量を行う。以上より、ヒトES細胞(H9)並びにヒトiPS細胞(AH-1)の(a)網膜色素上皮、(b) 骨芽細胞分化、(c)ドーパミン産生細胞分化並びに(d)インスリン産生細胞分化、に最適な細胞培養基板の剛性/弾性並びにを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の研究費41円が発生したため、次年度に持ち越しする。
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