幹細胞の運命の制御は、幹細胞培養基板の物理的特性(剛性/弾性)並びに生物化学的特性に大いに依存することが示唆されているが、これらの研究は個別に行なわれてきており系統的な研究はなされてこなかった。本研究では、(1)物理的因子と生物化学的因子双方を考慮した幹細胞培養用基板を設計し、ES細胞並びにiPS細胞の多分化能を維持した状態での大量培養の可能性を検討するすること、並びに、(2)適切な組織細胞(骨芽細胞、心筋細胞並びに間葉系幹細胞)への分化効率の高い最適な基板の剛性/弾性並びに最適な細胞外マトリックスの判明を本研究の目的とした。本研究では、様々な剛性/弾性を有する基板を作成し、この基板上にECM並びに細胞接着因子ペプチド(ビトロネクチン由来オリゴペプチド、フィブロネクチン由来オリゴペプチド並びにラミニン由来オリゴペプチド)を固定化させたナノセグメント固定化細胞培養基板を調製した。ナノセグメント固定化細胞培養基板上に、ヒトiPS細胞並びにES細胞を培養し、多分化状態の増殖に最適な基板の剛性 /弾性を明らにした。弾性率が25kPa前後のポリビニルアルコール系ハイドロゲルが基板として最適であった。さらに、この最適な剛性 /弾性を有するハイドロゲル上に固定化された最適な細胞外マトリックス並びに細胞接着因子ペプチド(ラミニンβ4由来ペプチド)を有するナノセグメント固定化細胞培養基板を調製し、ヒトiPS細胞並びにES細胞の培養を行った。ヒトiPS細胞並びにES細胞を多分化状態で培養するのに最適なナノセグメント固定化細胞培養基板上の細胞接着因子ペプチド(ラミニンβ4由来ペプチドに2本鎖構造、ジョイント基並びに塩基性リジンを添加したペプチド)が明らかとなった。また、ヒトiPS細胞並びにES細胞を骨芽細胞、心筋細胞並びに間葉系幹細胞への分化誘導を行った結果高純度で分化することが可能であった。
|