研究課題/領域番号 |
18K05253
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 進 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (20401234)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 分子動力学シミュレーション / 薄膜 / 核形成 / 結晶成長 / 分子配向 |
研究実績の概要 |
有機半導体薄膜成長過程の分子集団挙動には様々な分子に共通して見られる普遍的現象が多く、その基本原理を見抜くことができれば、高品質な有機半導体薄膜を作製するための汎用的指針を得ることが可能になると考えられる。本研究では、分子動力学(MD)シミュレーションによって有機半導体薄膜成長のメカニズムを分子レベルで解明し、上記のような高品質薄膜作製技術の向上に資することを目的とし、初年度(2018年度)は、MDシミュレーションの計算環境(ハードウエアとソフトウエア)を増設・高速化するとともに、基板表面上で分子が寝る、立つ、という現象をMDシミュレーションで取り扱う手法の確立に努めた。基板温度が比較的高い場合、不活性基板上では、棒状の有機半導体分子(ペンタセン等)は、基板表面に対して分子が立った状態で薄膜を形成する傾向にある。これを計算機中で再現していくため、様々な条件での予察的シミュレーションを行ったところ、孤立分子は基板との相互作用によって表面に寝て吸着した状態が安定であり、寝た状態にある分子が立ち上がる過程をMDでシミュレートすることは困難であることがわかった。分子が立つという現象は、基板への分子の吸着、表面拡散、再蒸発、集団化などの過程でたまたま立つ機会を得た分子集団がどこかに存在するという確率的な過程を含んでいるが、計算可能な数百分子、数ナノ秒程度の条件では、そのような確率的な過程を見ることは難しいという問題が背景にあると考えられる。そこで、発想を切り替え、最初から立った分子からなる分子クラスターの安定化条件をMDシミュレーションで追究することとし、(孤立分子はすぐに倒れて寝てしまうが)何分子程度のクラスターであれば分子が立った状態で安定的に存在しうるかを解析したところ、ある分子数より多くなると安定化し、周囲の分子を取り込んで更に成長することも可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の達成目標は、基板のモデルを構築すること、ならびに、「分子が立つ」という現象をMDシミュレーションで解析するための方法論を確立することであった。基板のモデル化は完了し、また、分子が立つという現象の解析に関しては、寝ている分子が立つ瞬間を見るのではなく、最初から立った分子からなる分子クラスターの安定性を調べるのが有効であることがわかり、解析方法をほぼ確立できたことから、進捗状況としては、「おおむね順調に進展している」と判断するのが適当である。
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今後の研究の推進方策 |
実験(真空装置を用いた薄膜成長実験)で観測する現象の時間スケールは「秒」のオーダーであるが、本研究で計算可能な時間スケールは数百分子程度のシミュレーションで「ピコ秒~ナノ秒」のオーダーであり、実験における基板への分子の吸着、表面拡散、再蒸発、集団化、核形成、結晶成長の過程を完全に再現しているとは言い難い。MDシミュレーションの結果をどの程度まで現実の現象の解釈に適用可能であるかを、初年度(2018年度)よりも更に深く考察しながら、シミュレーションの幅を広げていく。また、初年度は、棒状の曲がりにくい分子骨格をもったペンタセンのみをシミュレーションの対象としたが、曲がりやすい骨格をもった鎖状の分子(オリゴチオフェンやアルキル鎖をもつ分子等)に関しても、シミュレーションの適用可能性に関して検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度中の実施を計画していた研究自体は年度内に遂行できたが、海外出張(国際会議での成果発表)が実現しなかったため、次年度(2019年度)に繰越して海外での成果発表を実行する。既に、2019年5月にフランスで開催される国際会議に参加登録済みである。
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