研究課題/領域番号 |
18K05254
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高林 康裕 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (90769655)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / 分子性固体 / 金属内包フラーレン / 磁性 |
研究実績の概要 |
金属内包リチウムイオン内包フラーレン (Li+@C60)は、市販されている新たな内包フラーレンであり、その電子的特性、構造、応用の可能性に近年,注目があつまっている。このLiイオン内包フラーレンに続いて研究の目標となるのは、中性のLi@C60である。なぜなら、フラーレンケージ内に中性のLi原子が存在するという状態は、「超水素原子」を作り出すことを意味するからである。しかしながら、報告された中性のLi@C60の作製方法は、効率的ではなく、時間がかかる。我々は容易に入手出来る還元剤であるデカメチルフェロセンを用いることで化学的に還元するという、簡便で、信頼性の高い、効率的な、中性のLi@C60の合成方法を開発した。この方法で作製した固体試料について、X線回折、ラマンおよびEPRを用いて研究を行った。化学還元で作製したLi@C60は、EPR不活性なダイマー化した(Li@C60)2の割合が少なく、ラジカルモノマー種(Li+@C60(-))の割合が多いことを発見した。新しい合成方法を発見したのみならず、Li+@C60とLi@C60を統合した金属内包フラーレンの特異な一群を理解する上で重要な特性に関する知見を得た。この研究で成し遂げた結果は、機能性分子材料、特に分子性炭素材料を基にした拡張π電子系を研究する材料化学者らの研究にも直結するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超伝導体は、電気抵抗が0で、電気をエネルギー損失なく運ぶことが出来る。ゼロ抵抗に変わる温度をより高くするための新たな材料の開発は、材料科学が現在挑戦している最前線の課題の一つである。C60超伝導体は、高い超伝導転移温度を示し、また、極めて高い磁場にも耐え、過去30年間に渡り、材料研究の先頭の一角を担ってきた。しかしながら、近年、C60超伝導体の性能は頭打ちになっていたのも事実であり、代表者らは、従来のC60超伝導体の性能を越えることに挑戦している。高い対称性をもった金属イオンを内包した超原子的炭素骨格という未開拓のものを対象に、骨格の外から中へと、中から外への双方向の電子ドーピングによる電子制御という前例のないメカニズムを用いて、この目標を達成することを目指している。この種の系はこれまでに存在しないので、実に挑戦的な課題であり、もしも達成することが出来れば、素晴しい性能を発揮することが期待される。現在、母物質たる中性のリチウム内包C60フラーレンのバルク試料を合成し、その特性を調べるという最初のマイルストーンを達成した。これは、本研究課題の最終目標に向けて、着実に進んでいるということの証左である。
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今後の研究の推進方策 |
電気化学合成により、Li+@C60カチオンから1電子還元してLi+@C60-ラジカルアニオンを、3電子還元してLi+@C603-アニオンを作り出す。最終的にアルカリ金属との化合物を作る際には、電解質およびそれ由来のカチオンは不要なので、これらを除去する方法を検討する。また、KHなどアルカリ金属化合物とこの段階で反応させて、K2[Li@C60]を直接生成することも検討する。 Li@C60にKやRbをドープし、C60ケージの内部と外部にそれぞれ異なるアルカリ金属原子が存在する全く新しい物質の作製を試みる。合成方法については、通常のAxC60の合成に用いられるアルカリ金属とC60をガラス管に封入し、加熱して反応させる固相法に加えて、申請者らが開発・発展させた有機溶媒中で反応させる液相法を併用し、最適な合成条件を探る。 作製したアルカリ金属ドープLi@C60 (AxLi@C60)について、粉末X線回折や磁性測定など、基本的な物性評価を行うとともに、生成物中のアルカリ金属の量を調べ、仕込み組成に対して実際の組成がどのようになっているのかを検討する。 得られた良質の結晶性試料について、放射光を用いた精密粉末X線回折を行い、その結晶構造を解明する。また、構造解析と元素分析等を組み合わせることで、実際の組成がどのようになっているのかを確認する。磁化率測定、EPR、NMR、ラマン分光や赤外分光といった基本的な物性測定により、AxC60で観測された金属-絶縁体転移や超伝導転移ならびにヤーンテラー歪みといった現象がAx[Li@C60]でも起こるのかどうかを調べる。これにより、最適な組成のAx[Li@C60]を合成し、フラーレン超伝導体の持つ分子性固体中最高のTc = 38 Kを越える新規分子性超伝導体の実現を目指す。
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