研究課題/領域番号 |
18K05260
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 義明 京都大学, 理学研究科, 助教 (60402757)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性固体 / 超分子化学 / ハロゲン結合 / 水素結合 / 電荷秩序 |
研究実績の概要 |
超分子相互作用能を有するπ共役系分子を用いた多孔質有機材料の開発を目的として、主に以下の成果を得た。 (1)p型有機材料:EDO-TTF(EDO-TTF = 4,5-ethylenedioxytetrathiafulvalene)のジブロモ体EDO-TTF-Br2、またはジヨード体EDO-TTF-I2を(Bu4N)ReO4を含む電解液中で電解結晶成長を行うことにより、(EDO-TTF-Br2)2ReO4、(EDO-TTF-I2)ReO4の単結晶を得た。X線構造解析の結果、これらの塩では、ハロゲン原子とReO4陰イオンの間にハロゲン結合が観測された。特に(EDO-TTF-Br2)2ReO4では、結晶学的に独立なEDO-TTF-Br2分子が2種類存在し、Br…O-Re接触の距離やC=C結合長等が異なっていた。また、(EDO-TTF-Br2)2ReO4は半導体的な導電性を示したことから、電荷秩序絶縁体になっていると考えられる。 (2)n型有機材料:シアノ基はハロゲン結合、水素結合アクセプター部位であることから、シアノ基を有するテトラシアノキノジメタン(TCNQ)、およびそのテトラフルオロ体(F4TCNQ)とN-methyldiazabicyclooctane cation(M)との塩、M2(TCNQ)3、M(F4TCNQ)を作製した。結晶中でMはC-H…Nによる一次元鎖を形成しており、この一次元鎖とTCNQ、F4TCNQの積層カラムとの間に水素結合が形成されていた。また、これらの塩は半導体的導電性を示した。さらに、M2(TCNQ)3を1,4-diiodotetrafluorobenzeneと少量のCH2Cl2を加えて、混合磨砕することで得た粉末の赤外スペクトルを測定したところ、C≡N伸縮バンドのシフトが観測された。この結果よりTCNQが持つシアノ基とヨウ素の間にヨウ素結合が生成したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成30年度はヨウ素結合ドナー分子であるジヨードベンゾチエノベンゾチオフェン(I2BTBT)、ジヨードナフトジチオフェン(I2NDT)を合成する予定であったが、現在までにI2BTBTの合成に成功したが、I2NDTの合成には至っていない。しかしながら、ハロゲン結合ドナー分子であるEDO-TTF-Br2、EDO-TTF-I2、ハロゲン結合、水素結合アクセプター分子であるTCNQ、F4TCNQを用いた新規ラジカル塩の作製、単結晶構造解析に成功しており、それらの物性評価にも着手している。また、ハロゲン結合ドナー部位とハロゲン結合アクセプター部位の両方を有するクアテルチオフェンの合成に成功し、単結晶構造解析により構造が明らかになりつつあることから、研究目的の達成に向けて着実に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
超分子相互作用能を有するπ共役系分子を用いて多孔質有機材料を開発するために、以下の研究を進める。 (1)ハロゲン結合ドナー分子:EDO-TTF-Br2、EDO-TTF-I2の陽イオンラジカル塩の構造・物性を明らかにする。I2BTBTの物性評価、およびI2BTBTを用いた電荷移動錯体の開発を行う。 (2)ハロゲン結合アクセプター分子:ハロゲン結合アクセプター分子であるTCNQ類縁体とハロゲン結合ドナー分子を用いた電荷移動錯体の開発を行う。 (3)ハロゲン結合ドナー部位、アクセプター部位の両方を有する分子:合成に成功したハロゲン結合ドナー部位とハロゲン結合アクセプター部位の両方を有するクアテルチオフェンの構造を明らかにし、これを用いた電荷移動錯体の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】当初、備品費として高真空排気装置を計上していたが、現有設備が故障なく、利用することができた。その分を次年度以降の物品費、旅費等に充当することにしたため次年度使用額が生じた。
【使用計画】主として、研究を推進するための物品費、研究成果発表、研究打合せ等の旅費、大型計算機利用料に使用する。
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