研究課題/領域番号 |
18K05264
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤原 秀紀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70290898)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性伝導体 / 伝導性 / 磁性 / πーd相互作用 / TTF / 複素環 / X線構造解析 |
研究実績の概要 |
研究目的・方法にある、①複素環を置換した配位子分子の合成と物性評価、について、窒素原子が磁性金属原子へ強く配位可能な1,3,4-チアジアゾールを置換したビスメチルチオTTF誘導体を合成した。また、1,3-ベンゾチアゾールとチオール部位の両方が置換したビスメチルチオTTF誘導体も合成した。そして、これらの分子の酸化還元電位測定や光学測定を行い、量子化学計算とともに、配位子分子の電子状態について実験と理論の両面から検討を行った。その中で、チオール部位を有する分子に関しては、吸収スペクトルやNMR測定などの結果から、溶媒極性に応じて、分子内水素移動を伴う互変異性を起こすことを明らかにした。 ②複素環を置換した配位子分子を用いた金属錯体、カチオンラジカル塩の作製と構造・機能性の評価について、1,3,4-チアジアゾールを置換したビスメチルチオTTF誘導体1を用いた各種錯体・塩の開発を行った。CuCl2, CuBr2を用いた化学酸化法によって得られたカチオンラジカル塩1・CuCl3, 1・CuBr3の黒色針状結晶のX線構造解析を行ったところ、ドナー分子のチアジアゾールの窒素原子にCuX3-の銅原子が2.01Åの距離で直接配位した1:1塩を形成していることを明らかにした。SQUID測定の結果から、分子内π-d相互作用に基づく、弱い反強磁性的な相互作用が存在することを見出した。一方、(1)2Cu(hfac)2錯体は分子1とCu(hfac)2を熱シクロヘキサン中で2:1の混合比で反応させることにより合成した。(1)2Cu(hfac)2の褐色板状結晶のX線構造解析を行った結果、チアジアゾールの窒素原子がCu(hfac)2の上下からCu-N = 2.235 Åの距離で配位し、Cu(hfac)2が2つのドナー分子の間に挟まるような構造をとっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究計画にある、①複素環を置換した配位子分子の合成と物性評価については、1,3,4-チアジアゾールを置換したビスメチルチオTTF誘導体や1,3-ベンゾチアゾールとチオール部位の両方が置換したビスメチルチオTTF誘導体の合成に成功し、それらの酸化還元電位測定や光学測定を行い、量子化学計算とともに、配位子分子の電子状態について実験と理論の両面から議論できている。また、光電気化学的手法による光誘起伝導性についても検討を行っている。 ②複素環を置換した配位子分子を用いた金属錯体、カチオンラジカル塩の作製と構造・機能性の評価については、1,3,4-チアジアゾールを置換したビスメチルチオTTF誘導体を用いた際に、Cu(hfac)2錯体の作製に成功している。また、カチオンラジカル塩の作製についても1・CuCl3, 1・CuBr3塩を含めたいくつものカチオンラジカル塩の作製とその構造・物性評価に成功している。 一方で、電気伝導性的にはいずれも高伝導性を実現するには至っておらず、今後の検討課題となっている。また、配位ネットワークの構築にも成功していないため、今後検討を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
新規分子の開発については、現在のところ、主に1,3,4-チアジアゾールや1,3-ベンゾチアゾールなどの複素環を一つ有する分子の開発に成功しているのみであるため、高次の配位ネットワークの構築のために、複数の複素環部位を有する分子の開発を精力的に行っていく予定である。また、これまでに高い伝導性を示すカチオンラジカル塩の作製に成功していないため、より強固な積層構造を構築可能と考えられる、エチレンジチオ置換体やエチレンジオキシ置換体の合成を行い、その高伝導性塩の作製を目指す予定である。また、今後はFeCl4やFeBr4などの鉄系、CoCl4などのコバルト系も含めた各種磁性遷移金属アニオンを用いた新規なカチオンラジカル塩の作製に着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初予定していた金額に比べて、主に、旅費および学会参加費が少なかったため、残金が生じた。残金はそれほど大きな額ではないので、次年度予算と合算して有効利用するために余剰金とした。 (使用計画) 余剰金は物品費として平成31年度予算と合算して使用する。
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