研究実績の概要 |
平成31年度研究目的・方法にある、①分子内、あるいは分子間でのプロトン移動による、互変異性や電子状態変化を通じた外場応答型伝導体の開発を目指し、窒素を含むジアザキノン骨格と水酸基を有するドナー分子の開発を前年度に引き続き行った。置換基として、1,3-ジチオール環側にベンゾ環、中央のジアザキノイド部分に新たにメトキシ基を有する分子を合成し、その光学的、電子的性質を明らかにした。また、メトキシ基のメチル基の脱離による水酸基への変換を目指し、各種脱メチル基試薬との反応を行ったところ、反応は進行したが、生成物が難溶性のため、分子の同定には至らなかった。窒素や水酸基同士が水素結合によるネットワークを形成した結果、難溶性になったものと思われる。 また、置換基として、1,3-ジチオール環側にベンゾ環、中央のジアザキノイド部分にエトキシ基を有する分子の発光特性について検討した。一般にTTF誘導体は非発光性であり、窒素を含まないベンゾキノイドTTFやジベンゾTTFは室温から液体窒素温度まで全く発光を示さない。一方で、ジアザキノイド骨格を導入した分子では塩化メチレン溶液は室温において弱いながら0.2%程度の発光量子収率を有する黄緑の発光を示した。さらにその温度可変蛍光スペクトルを測定したところ、温度低下に伴い、蛍光強度の著しい増大(強度(93K)/強度(293K) = 505)が観測された。これは冷却することで、分子振動による無輻射失活が抑制されたためと考えられる。 研究機関全体を通して、いくつもの複素環を有するTTF誘導体の合成、その磁性アニオンとの錯体生成、およびその物性評価に成功した。また、温度や電圧によってその電子物性や光機能性が著しく変化する分子群の開発に成功した。
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