研究課題/領域番号 |
18K05267
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
細貝 拓也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90613513)
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研究分担者 |
宮前 孝行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (80358134)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有機EL / 電界発光 / 励起状態ダイナミクス / キャリアダイナミクス / オペランド分光計測 |
研究実績の概要 |
本研究課題の初年度となる本年度は、計測技術の開発を主に推し進め、特にオペランド過渡吸収分光計測システムを構築した。光学システムは一から立ち上げを行い、光学システムのデザインから必要物品の購入、計測プログラムの構築、実用的な計測システムの構築を行い、これをほぼ完了した。具体的には集光キセノンランプ光源、ナノ秒窒素パルスレーザ、高速電圧アンプ、高速高電圧アンプ、4GHzデジタルオシロスコープ、小型分光器、パルス電圧発生器、光電子倍増管を用意し、電界励起だけでなく光励起にも対応できる過渡吸収および過渡発光計測システムをくみ上げた。この計測システムは、当グループで所有しているその他のサブナノ秒およびフェムト秒パルスレーザによる計測も可能である。計測プログラムはLabviewをベースとして、立ち上がり3 nsの電圧パルスの矩形波をマイクロ秒のパルス幅で印可するプログラムとした。これと並行して、分担者による三重項―三重項アニヒレーション(TTA)プロセスを用いた青色発光有機EL素子について、電界誘起二重共鳴SFG分光での内部の電荷挙動の解析を進めた。TTA過程を用いた青色発光有機EL素子において、電圧印加して素子を駆動させた状態でSFG測定を行ったところ、発光層と電子ブロック層界面に電荷蓄積が起こっていることが確認できた。TTA過程を効率的に誘起するには3重項状態の分子が過剰に存在することが必要であるが、今回SFGで確認された電荷蓄積はTTA過程が発光層/電子ブロック層界面に起こっていることを示している結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機EL素子の駆動中に電界励起によって生成するエキシトン(励起子)のダイナミクスを検出するためのオペランド過渡吸収分光計測システムの開発を行った。装置の設計は、主に申請代表者が有しているNe:YAGパルスレーザ光を励起源とした過渡吸収分光計測システムを参考に、本課題で購入した小型高強度ランプハウス光源を検出光としたバイポーラ―アンプの電界励起が可能な光学システムを構築した。放物面鏡を用いた集光型のXeランプハウス光源の購入を行い、その間に電気系統および光学系の構築を進めた。この時、デバイスの光励起による過渡吸収も行うため、所有しているNd:YAGサブピコ秒パルスレーザの導入も見据えた形でシステムを構成した。また、上記パルスレーザの三倍波では励起できない試料に対応するため、337nmの単パルスレーザが放出可能な窒素レーザを購入し、これも光学系に導入した。オペランド過渡吸収分光計測システム用の計測プログラムも開発して、動作することを確認した。初年度に予定していたオペランド過渡吸収分光計測システムの開発はおおむね完了した。オペランドSFG分光では、電子輸送材料を変えた青色発光有機EL素子において、時間分解測定で電子輸送材料を変えたことによる界面電荷蓄積の明確な差を確認することができた。さらに素子構成を変えた素子での電荷挙動のその場計測を進めている所である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で開発したオペランド過渡吸収分光装置と分担者が既に開発しているオペランド和周波分光装置を連携研究者が作製する種々の発光材料(TTA材料、熱活性型遅延蛍光材料等)をベースとした有機ELに適用することで、デバイス駆動中における素子の発光ダイナミクスの評価を進める。既に、分担者の宮前は三重項励起子同士の衝突過程による逆項間交差によって発光するTTA材料をベースとした有機ELデバイスの解析を進めており、素子内部のキャリアの分布やダイナミクスに関する知見を得ている。オペランド過渡吸収分光装置においても、素子測定を開始させ、測定条件の探索を行う。また、本年度はオペランド過渡吸収分光装置の改良も推し進め、昨年度に購入した液体ヘリウム冷凍機の導入によるオペランド過渡吸収計測の温度変調機構を実装する。これによって、電界励起によって発生する熱活性型遅延蛍光の機構解明の知見を得る。また、種々の発光材料をベースとした有機EL素子について、SFG分光に用いている可視励起光の波長依存性や時間分解測定を進め、素子内部の電荷蓄積挙動と発光特性、素子劣化挙動との関連も明らかにしていくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた検出光用のプラズマ励起光源が科研費予算の関係上、購入を断念せざるをえなかったため、代わりの通常励起光源を購入した分の差額が繰越金額として発生した。繰越金は次年度の予算と合わせて、より高速な電圧アンプの購入に使用する予定である。
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