研究課題/領域番号 |
18K05270
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
溝口 拓 東京工業大学, 元素戦略研究センター, 特任准教授 (50598414)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エレクトライド / 電子構造 / 窒化物 / 金属間化合物 |
研究実績の概要 |
電子が見かけ上陰イオンとして存在する固体は、エレクトライド(電子化物)と呼ばれ、その著しい電子放出特性を生かして、高機能な還元性触媒として実用化が進んでいる。エレクトライド結晶においては、空隙を有するホスト格子と、その空隙に位置する電子とが分離している。研究代表者らは、電子構造計算を用いて、逆ReO3型のA3N物質群(A:アルカリ金属)が、その大きな空隙サイトと、A の最外殻s軌道との間の相互作用により、金属的電子構造を示すことを予測した、本研究では、反応性蒸着によりA3N窒化物エレクトライド薄膜を合成し、その電気的、光学的物性を精密に評価し、特異な電子構造の成因を明らかにすることを目的とする。2018年度は、A3N窒化物エレクトライド薄膜合成のための窒化物蒸着膜合成装置の整備を行なった。窒化物薄膜合成用蒸着装置の購入、整備がほぼ完了した。高周波電源を用いて、窒素ラジカルの生成を確認した。いよいよ、薄膜合成実験に取りかかることができる。 同様に、窒化物だけでなく、金属間化合物のエレクトライド物質の探索を行なった。その過程で、LnNiSi (Ln:ランタノイド、Ln = La, Ce, Pr, Nd)がエレクトライドであることを発見した。これらの物質は、室温から400 ℃の温度領域で、水素を容易に取り込む。そのさい、格子の体積変化をほとんど示さない。つまり、ゼオライトのようにもともと隙間を有する金属間化合物と言える。金属系物質は、通常最密構造を有し、隙間を有するものは、特異である。ハーバ-ボッシュプロセスによる、水素/窒素からのアンモニア合成に適用したところ、Ruを5wt%担持したLaNiSiは、350 ℃付近で、高いアンモニア合成活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、A3N窒化物エレクトライド薄膜合成のための窒化物蒸着膜合成装置の整備を行なった。蒸着用小型チェンバは、丸菱実業/ケ-ズテック社とともに設計した。合成した膜を、ロ-ドロックを用いて、グロ-ブボックスに移動可能にし、物性測定を可能にする。そのために、搬送用のチャンバを取り付けた。トランスファ-ロッドでサンプルホルダをつかむ必要があるが、搬送中に取り落とすことが多く、そのつかむ部分を現在改良中である。タ-ボ分子ポンプ/スクロ-ルポンプの小型排気ユニットを使用し、メインチャンバについては10-4 Pa台まで真空に引けることを確認した。アルカリ金属は大気に曝すと、水やCO2を吸着しやすい。それを防止するために、蒸着用ヒ-タを装着したフランジを、クイックカップリングに変更し、蒸着物質の迅速な交換を可能にした。バルクのアルカリ金属窒化物の合成は、反応性の低い窒素ガスのせいもあり、容易ではない。その困難に打ち克ち低温合成を達成するためには、原料ガスの活性化が有効と期待され、窒素ラジカルガンの購入を検討していたが、価格の面で折り合わなかった。代替品として、窒素ガス(高純度G1)の高周波プラズマ(ケニックス社、13.56 MHz, MAX 50W)を採用した。1から200 Paの圧力領域で、darkモードの励起N2*分子によるプラズマの生成を確認した。アルカリ金属を抵抗加熱で飛ばしても、現在までのところ、A3N膜の生成は確認できていない。抵抗加熱源と基板との距離、窒素プラズマと基板との距離などの調整を試みている。比較的高い窒素ガスの圧力が、アルカリ金属蒸気の平均自由行程を小さくしている可能性もある。現在、蒸着膜合成プロセスの改良に鋭意努力している。このような状況であり、おおむね順調に進展していると、自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
①窒素プラズマ反応性蒸着法を改良し、良質の窒化物薄膜合成の技術基盤の確立を目指す。まずは、アルカリ金属の蒸着と、窒化物の生成を確認するのが急務であり、それに全力を注ぐ。抵抗加熱源と基板との距離(及び角度)、窒素プラズマと基板との距離、窒素圧力などの調整を試みる。 ②エレクトライド薄膜の物性評価 得られた薄膜の電気的及び光学的性質を評価する。キャリア輸送特性の評価からA3Nがエレクトライドであることを確認するだけでなく、光学反射率測定から、光学定数を評価する。キャリア電子の光学物性に及ぼす影響(例えば、プラズマ周波数)を評価し、電子濃度、電子移動度に関する情報も得て、空隙サイトの電子構造を考察する。 ②エレクトライドの電子構造の解析 得られた実験結果に基づき、計算科学的手法で、フィ-ドバックをかける。トライアンドエラ-的なアプロ-チが必要になることが多い物質探索を効率的に進めるために、従来の固体化学的手法に理論計算などの手法を取り入れて、エレクトライド材料の探索を進める。電子の空隙サイトへの移動を評価するには、電子構造計算の助けを借りる必要がある。DFTバンド構造計算による電子構造解析とタイトバインディング法による化学的な電子構造計算を組み合わせることにより、固体中での化学結合のエッセンスを抽出することに注力し、ホスト格子/電子の分離を生ぜしめる化学結合の出現条件に関する知見を蓄積する。窒化物だけでなく、最近得られた金属間化合物エレクトライドLnNiSiなどの解析も、並行して進める。上記の知見から、常圧下でのエレクトライド物質の出現メカニズムを解明する。これは、さらなるエレクトライド物質の効率的探索を可能にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、中古の高周波電源の入手により、使用金額を抑えることができたためである。 その使用計画としては、現在投稿中の論文の投稿費に充てる予定である。もっとも、その原稿が受理されるかどうかは未定であるが。
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