研究課題/領域番号 |
18K05271
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
吉武 英昭 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20230716)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | シルセスキオキサン / 吸着 / ヒ素 / 金触媒 |
研究実績の概要 |
3-アミノプロピル基、6-アミノへキシル基等の組合せによるポリシルセスキオキサンの合成を行った。合成にはそれぞれの官能基を含むシランを加水分解、シロキサン結合の形成位置が一致するようにそれぞれのアミノアルキル基の鎖長に応じた異なるカルボン酸界面活性剤を混合して共存させ、水熱合成を行った。板状ミセルが形成する条件で合成したが、X線回折で確認したところ、予想通りの層状固体が得られることが明らかになった。アミノアルキル基混合比は0:10から10:0まで変えても層状固体が形成され、元素分析の結果、その比はシランの混合比(界面活性剤混合比と同じ)とほぼ同じになることが判明した。またアルキル基の赤外吸収スペクトルは、同官能基が液体状態よりも高密度ポリエチレンの状態に近く、層状固体内で炭素鎖が高密度に規則正しく配列していることが示唆された。 この固体を鉄(III)の溶液で処理し、界面活性剤を除去、層剥離を行った。さらに水素イオンで鉄(III)を置換、アミノ基を中性化して高い密度を持つアニオン吸着剤に変換した。ヒ酸イオンの吸着を行ったところ、3-アミノプロピル基のみで合成された場合に比べ、最大で2割吸着量が増大した。 一方、3-アミノプロピルシランとテトラメトキシオルトシリケートを組み合わせて合成した固体についても同様にX線回折、元素分析、赤外分光分析を行った。この場合も層状固体が得られた。鉄(III)溶液処理により界面活性剤を除去後、水素イオンで鉄(III)を置換すると、3-アミノアルキル基がサイトにより欠落しているポリシルセスキオキサン薄層固体が得られるが、これを金触媒の担体として用いた。エチレンジアミン錯体の担持、分解と塩化金酸の担持、分解の二種類の触媒を調製し、エチルベンゼンの酸化カップリングを行ったところ、前者の調製法による触媒のみ活性が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施は、3つのステージに分けられる。第一が合成と構造の分析であるが、対象は大きく分けて層状固体とメソ細孔性固体の二種類のメソ構造性物質を当初から想定している。表面有機基の種類、組成、密度を変え、様々な固体が合成できることを確認する。第二段階は吸着反応、触媒反応等、当研究室で過去に行ってきた反応を元に、合成した固体の機能の詳細な解析である。そして第三段階は、当研究室で経験のない反応や固体の機能を見出すことである。本研究課題は3年での完了を予定しているので、これらの段階をそれぞれの年度に振り分けることが、研究の進捗管理としては簡潔で優れている。しかしながら、実際には研究過程で発見される様々な事実を組合せて進めないと大変効率が悪い。そのためそれぞれの段階に拘り過ぎることなく、研究の進め方で前後することは避けられない。 こうした背景から初年度の研究進捗状況を評価すると、第一段階では当初予定しているメソ細孔性固体は合成を試みているが分析まで行ってはいない。一方で層状固体の方は分析までほぼ完了している。そして層状固体については、第二段階の部分もいろいろな反応を開始している。以上のように実施内容と実施状況を対照すると、上記の区分が最も適当である。
|
今後の研究の推進方策 |
構造解析ではケイ素29と炭素13の2つの核種の核磁気共鳴分析を行う必要があるが、これは依頼分析を行う。定型的な分析になることが予想されるが、情報量は大きく、合成した構造解析を完成することができる。メソ細孔性固体については、研究開始後に完全に補助金事業の内容に合致するが、申請書には記載しなかった優れた方法を考えついたので、それを実施する。申請書の記載内容より新規性が高くなり、当然時間はかかることが予想されるが、実行は十分可能な上、成果のインパクトは大きくなるため、検討内容を変更する。 【現在までの進捗状況】に記載した第二段階の部分は、様々な反応を試すことで安定して進めることが望ましいと思われる。吸着については毒性の高いオキシアニオン(ヒ素、六価クロム、モリブデン、セレンなど)の水溶液を触媒への応用は様々な金触媒反応を試すことでいろいろな機能評価が行えるものと考えている。 補助金事業の2年目は、以上の段階までを確実に行う。しかし同時に新たな応用の開発につなげるため、それぞれの固体の持つ特有の性質を強調できる反応は、詳細な解析に移行する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬等が当初考えていたより少量少種で済み、その分の経費が不要になった。また機器の修理等がなかったため、応分の維持費も必要なかった。研究実施内容は計画と多少前後し、機器の呼称は予想できない。本年度に生じた使用額の差については、来年度に出費が発生する可能性が高い。
|