本研究では、有機金属錯体を中空粒子に内包させた構造体の合成を目指して取り組んだ。このような構造体とすることで、有機金属錯体のもつ構造の柔軟性と、それにより得られる高収率・高選択性を維持したまま、回収・再利用の課題を解決できると考えられる。このような材料が合成できれば従来の有機金属錯体の再利用性の向上やプロセスの簡略化の観点だけではなく、現在は不均一系触媒が用いられている反応系に活性や選択性の高い有機金属錯体を利用すること、また、中空粒子の細孔や表面物性を積極的に用いることで、従来の有機金属錯体だけでは得られない新たな機能の発現も期待できる。 これまでの取り組みで、当初計画していた異なる2つのアプローチでは目的とする構造体の合成に至っていない。そこで令和3年度は構造の大きなフタロシアニンを骨格とする錯体合成し、中空構造の鋳型として使うことで、中空内部からの溶出が少ない構造体の合成を試みたが、シェル合成時または、金属錯体内包時の液性、温度などが問題となり目的構造体の合成には至らなかった。 一方で、タングステンの錯体結晶を用いた検討では、その後の熱処理により粒子化してしまったものの酸化タングステンのナノ粒子を内包したヨーク・シェル構造体の合成に成功している。 以上のことから、どのようにして中空内部でシェルの細孔より大きなサイズのバルク状態を維持できるかという点が、有機金属錯体を中空粒子に内包した構造体の合成には必要であることが明らかとなった。
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