研究課題/領域番号 |
18K05274
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
枝 和男 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00193996)
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研究分担者 |
中嶋 隆人 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, チームリーダー (10312993)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポリオキソメタレート / 多電子移動反応 / プロトン共役電子移動反応 / 生成反応 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
本研究は,持続可能なエネルギー社会の実現に資する技術の開発を目指し,我々が最近ケギン型Wポリオキソメタレート(W-POM)イオンで見出だした「W-POM における擬4電子移動の発現とPOM内部にある4架橋O-W結合の結合原子価との相関」と「アンダーソン型POMからのケギン型POMの形成」のメカニズムを量子化学計算や検証実験に基づいて解き明かし,プロトン移動と共役した多電子移動反応を仲介・促進する新たな(ヘテロ原子を分子内に持つ)ケギン型あるいはその拡張型POMを開発する理論的な設計指針を構築することを目的としている。 そのため本年度の研究では,多段階1電子移動の電位の結合原子価への線形依存の起源や後発のプロトン付加と共役した電子移動が結合原子価と相関して電位逆転を起こすメカニズムを明らかにするため,種々のW-POMイオンの電子付加体あるいは電子・プロトン共付加体などの様々な系に関して第一原理電子状態計算を行って調べた。また,多電子移動反応を仲介・促進する新たなケギン型あるいはその拡張型POMを開発する方法を明らかにするためのアンダーソン型POMからケギン型POMの形成反応の経路探索と反応経路に及ぼす影響を調べる研究の前準備として反応経路上でキーポイントとなる構造の探索とアンダーソン型POMの安定性に及ぼすヘテロ原子の種類や電荷の違いによる影響について量子化学計算を用いて調べた。そして更に実際の新たなケギン型POMの合成法の開発とケギン型POMの形成反応の経路探索研究で導き出される計算的結果の検証につながるデータ収集として水熱条件下でのケギン型イソW-POM(ヘテロ原子がプロトンで本来のイオン中心にあるヘテロ原子が不在)の中心ヘテロ原子の取り込みによるケギン型W-POMの形成反応におけるヘテロ原子の種類と電荷や温度・溶液組成・溶液濃度の影響について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに行ったW-POMイオンの電子付加体あるいは電子・プロトン共付加体に関する第一原理電子状態計算のうち,特に多段階1電子移動の電位の結合原子価への線形依存の起源を解明するための計算では,得られた計算結果(電子親和力や電子付加に伴う全エネルギー変化)は「2段階目以降の酸化還元電位も1段階目の電位と同じ傾きの線形依存を結合原子価に対して示す」電気化学実験の結果をよく再現するものであり,電子密度解析や軌道成分解析などから酸化還元電位の結合原子価への依存の起源を明らかにすることができた。 プロトン付加に関係した電位逆転のメカニズムの解明のための電子・プロトン共付加体に関する計算については,プロトン付加サイトの選択肢の多さと多電子・多プロトンの反応の複雑さのため必要な計算量が(電子付加体の計算に比べ)さらに膨大で現時点では道半ばであるが,必要な計算結果の集積は順調に進んでいる。 アンダーソン型POMからケギン型POMの形成反応に関しては,効果的に反応経路探索を行うため,アンダーソン型POMからケギン型POMへの構造転換の中間段階の構造の候補について一つ一つ量子化学計算を行い調べているところである。アンダーソン型POMの安定性に及ぼすヘテロ原子の種類や電荷の影響については既に多くのヘテロ原子に関する量子化学計算を行い,データ収集を行った。 水熱条件下でのヘテロ原子の取り込みによるケギン型W-POMの形成反応に関するデータ収集は,現時点ではケギン型W-POMのヘテロ原子として既に知られている元素に関して主に行っているが,順調に進んでいる。 本年度の研究成果に基づき3件の学会発表を行った。また,多段階1電子移動に関する研究成果に関しては論文発表の準備を現在進めている。本研究は申請時の計画より可能な限り前倒しで進めており,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
プロトン付加に関係した電位逆転のメカニズムの解明のための電子・プロトン共付加体に関する本年度の計算は,プロトンの付加サイトの違いによる電子・プロトン共付加体の構造や電子状態の違いを最初に明らかにするため,プロトンと電子が1対1の関係で関わるケースを中心に計算を進めてきたが,電位逆転を起こす環境は1個のW-POMイオンの回りに大過剰のプロトンが存在するような環境であるので,プロトンと電子が多対1の関係で関わるようなケースの計算も進めて行き,これまでに集積したデータと合わせて,実際に起こるW-POMの電気化学挙動を十分に説明するメカニズムの解明に繋げ,多電子移動反応を仲介・促進するために最も有効なケギン型POMはどのようなヘテロ原子を含む必要があるのかを明らかにする。 アンダーソン型POMからケギン型POMの形成反応に関しては,本年度に得られた知見をもとにさらに中間段階の構造の候補についての量子化学計算を進め,中間段階の構造を決定した後に反応経路探索を行うとともに,反応経路に及ぼすヘテロ原子の種類や電荷の影響・溶媒環境,特に溶媒の誘電率の影響などを明らかにし,多電子移動反応の仲介・促進に適した新たなケギン型あるいはその拡張型POMの有効な合成条件を導く指針を構築する。 水熱条件下でのヘテロ原子の取り込みによるケギン型W-POMの形成反応に関しては,更に情報収集を進め,反応経路探索の研究の検証と多電子移動反応の仲介・促進に適した新たなケギン型あるいはその拡張型POMの実際の合成に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は研究協力者として研究を進めてくれた修士課程と博士課程の2人の学生のために研究代表者がある程度まとまった研究費を準備することができ,本研究経費の使用を大きく節約することができたためである。最終年度に海外での研究成果の発表を目指して研究を進めているので,海外への渡航費(150千円/1名),宿泊費(80千円/1名),参加登録費(100千円/1名)2名分の1部として使用する予定である。
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備考 |
論文として発表が完了したものについては,順次,Webで公開を行う。
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