研究課題/領域番号 |
18K05276
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
藤代 史 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (90546269)
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研究分担者 |
大石 昌嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30593587)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸素貯蔵物質 / ペロブスカイト型酸化物 / 熱重量測定 / XAFS測定 |
研究実績の概要 |
SrFeO3-δやBaFeO3-δ等のように酸素欠損が規則的に並んでいる物質に異種元素を部分置換すると、酸素欠損配列の不規則化を伴う大きな酸素量変化Δ(3-δ)を生じさせることができる。このような物質は、遷移元素の価数変化による酸化還元反応を利用した酸素貯蔵物質としての可能性を秘めており、置換元素の種類や量の最適化により新たな機能性材料の合成が期待できる。平成30年度は、(a)SrFeO3-δ、BaFeO3-δのFeサイトに複数種の元素を置換した固溶系の合成実験及び、(b)2種類の遷移元素を含む試料の酸素放出特性について、in situ XAFS測定による各遷移元素の還元量(酸素放出量)の評価を行った。 (a)炭酸塩および硝酸塩を原料試薬としてPechini法を用いて、BaFe1-xMexO3-δ、 SrFe1-xMexO3-δ (Me:遷移元素及び3価のカチオン)の合成を行った。平成30年度は、Ba系については、In、Gaなどの典型元素を、Sr系試料ではMn、Coなどの遷移元素を置換元素とした。BaFe1-xGaxO3-δ以外の系では、幅広い組成範囲で単相の固溶体を合成できることが判明した。各試料の構成元素のイオン半径からトレランスファクターを計算した結果、その値が1からどの程度離れているかで単相試料合成の可否がある程度説明できたが実際には試料中の酸素量が試料により異なるため、今回合成した試料の結果を置換元素の種類や濃度で整理することが材料設計の最適化に向けた今後の課題である。 (b)平成30年度合成した試料の中で、幅広い組成範囲で単相試料を合成できたSrFe1-xMnxO3-δ及び、SrFe1-xCoxO3-δについて、高温下での脱ガスの際にどの元素が還元されるのかを、in situ XAFS測定により評価した。各試料のBサイトカチオンのK端のエネルギーシフトから見積もった個々のイオンの還元量(=酸素放出量)を比較すると、Mn < Fe < Coの順に並べられることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、遷移元素の価数変化による酸化還元反応を利用した酸素貯蔵物質について、異元素置換により結晶構造変化を伴って酸素欠損配列が不規則化する物質群の、異元素置換量、酸素欠損量と酸素吸収放出特性との相関関係を明らかにすることによって、既存の材料より優れた物質を提供することを目標としている。 本年度は、SrFeO3-δ、BaFeO3-δを母物質としてFeサイトに様々なカチオンを置換した系の合成実験を行った。その結果、複数の系において幅広い組成範囲で単相試料の合成が可能であることが判明した。また、これらの系の酸素量はBサイトカチオンの価数により決定されるため、一般的なトレランスファクターによる整理だけでは単相合成の可否を説明できないことも分かった。材料設計の最適化のためには、さらに多くの種類の元素置換による合成実験が必要であると考えられる。さらに、in situ XAFS測定によりBサイトカチオンごとのK端エネルギーのシフト量を調査し、通常の熱重量変化からわかる合計の酸素放出量に加え、カチオンごとの還元量(酸素放出量)を評価した。この結果、同じ立方晶ペロブスカイト構造をとる物質中では、Mn < Fe < Co の順に還元しやすくなることがわかり、熱力学的な予想(エリンガム図など)との相関があることが判明した。このことは異元素置換による材料合成の最適化に対し、熱力学的な知見が有効であるという点で重要な情報であると考えられる。上記のように、研究計画に基づいておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度に合成に成功した試料の酸素放出特性について、種々の酸素分圧下での熱重量測定を実施し、置換元素の種類や量に対する特性の違いの把握を試みる。また、これまでに合成した固溶系以外の試料の合成も試み、置換元素の種類や量に対する単相合成の可否を俯瞰できる情報作成に努める。さらに、広い組成範囲で単相合成が可能な系に対し、酸素吸収放出にかかる遷移元素の酸化還元特性の詳細を調べるために、メスバウアー分光測定及びXAFS測定等を実施し、Feの化学状態、特に磁気的特性の理解や遷移元素-酸素多面体の局所構造・対称性に関する情報の収集を行う。得られたこれらの知見から、新たな酸素貯蔵物質創製のための指針の構築に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度当初に計画していた人件費・謝金において、実験補助業務担当予定の学生が都合により担当できなくなったため次年度使用額が生じた。翌年度の研究計画では、研究試料の合成実験における補助業務担当学生の数を増やす予定である。
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