本研究では、金属イオンをドープした高分子フィルムを金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks: MOFs)結晶膜を作製する前駆体かつ支持基板として利用し、MOFsの核形成ならびに核成長の速度を制御することによりMOF連続膜を形成する手法の開発を目的としている。 令和2年度では、主に2つの課題、1)構造柔軟性を有するMOF結晶薄膜の作製およびその柔軟性挙動の評価、および2)発光特性を有する配位高分子薄膜の作製について検討した。
1)の課題については、これまでに取り組んできた様々な種類のMOFと同様に金属イオンドープ高分子フィルム上にMOF結晶が作製可能であることが分かった。構造柔軟性を有するMOFは任意の刺激によりゲスト分子の脱着が可能となるため、その構造柔軟性がバルクと比較してどのように変化しているかを検討した結果、ゲスト分子脱離後でもオープン型構造(バルクでは細孔容積が減少したクローズ型構造をとる)となっていることが明らかとなり、合成条件を精密に制御することにより、構造柔軟性を調節することに成功した。
2)の課題については、細孔のない銅-チオラート配位高分子薄膜の作製について検討することにより本手法の汎用性について評価した。その結果、高分子フィルム内にドープした銅イオンは2価のカチオンであるが、反応初期においてチオール分子の還元作用により1価のカチオンに還元され、その後チオール分子と配位することにより配位高分子を形成していることがあきらかとなった。また、銀イオンを混合することにより配位高分子内の金属組成比を制御したり、高分子フィルム上にフォトレジストを塗布することによりパターン形成にも成功した。
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