研究実績の概要 |
BaH2は約500℃で高温相に相転移すると、ヒドリドH-をキャリアとする超イオン伝導性を示し、その630℃での導電率は、従来の無機化合物の導電率を凌ぐ0.2 S cm-1に達する。本研究では高温高圧法を用い、BaH2を基盤物質とした新規高ヒドリド伝導水素化物の探索と、その組織制御により新規超イオン伝導体を得る手法を見出すことを目的としている。 本研究は、まずBaH2の各相の安定条件を明らかにするため、高温高圧X線回折と分光測定により温度圧力相図を作成することから開始した。得られた70 GPa, 600℃までの相図から、超イオン伝導相である高温相と高圧相が同一相(高温高圧相)であることが強く示唆されたが、結晶構造中の水素位置は確認できていなかった。そのため、重水素化試料(BaD2)を合成し、約15 GPaまでの高圧中性子回折により高圧相の詳細構造を明らかにした。その結果、高圧相も同一の超イオン伝導相であり、広範な条件で安定的に得られることが分かった。室温約53GPa以上で現れる第二高圧相の高温での生成条件も調べ、高圧相と第二高圧相の相境界線も負の傾きを持つことが分かった。 また、イオン伝導性の向上を目指し、金属イオン置換による欠陥導入や結合水素量の制御を試みた。その結果、室温約45 GPa以上でBaH2高圧相と単体水素との反応により、新規バリウム多水素化物BaHn (n > 2) が生成することを見出した。この圧力は、計算予測や他の実験報告よりもはるかに低い圧力であり、よりマイルドな圧力条件での多水素化物合成の可能性を示した。キャリアである水素が導入された多水素化物は物性の向上が期待でき、現在、この新規水素化物の構造解析と進めるとともに、物性測定に着手している。
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