研究課題/領域番号 |
18K05288
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 崇司 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (20643232)
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研究分担者 |
木村 勇太 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60774081)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 正極材料 / 酸素脱離 |
研究実績の概要 |
熱重量天秤とクーロン滴定セルを併用することで、次世代リチウムイオン電池正極として期待されているLi過剰系正極材料Li1.2Mn0.6Ni0.2O2の酸素脱離現象を実験的に評価することに成功した。また、X線吸収分光測定によって酸素脱離がMn-Ni-Oの協調的な電荷補償を引き起こすこと、さらにX線回折およびEXAFS解析によって酸素脱離が結晶構造変化を引き起こすことを明らかにした。これらはリチウムイオン電池正極の酸素脱離現象を理解する上で重要な知見である。 またLi1.2Mn0.6Ni0.2O2のPristineサンプルと酸素脱離サンプルの電気化学特性を比較することで、酸素空孔導入による電池特性の変調を評価した。本研究ではクーロン滴定セルを利用してサンプルに酸素空孔を導入した。これは既往研究とは一線を画するアプローチであり、本研究で準備した酸素脱離試料は1) 酸素空孔量が厳密に制御されており、2) 導入した酸素空孔が材料全体に均質に分散されている点に特徴がある。この二つの独自アプローチによって、これまで解明されてこなかった酸素空孔導入による電池特性変化の本質に迫ることができる。酸素空孔を導入することで電極の「活性化」が促進される様子が確認できた。これは酸素空孔導入により、構造変化や充電時の酸素脱離が促進されていることを示唆する結果である。さらに軟X線吸収分光法により、充放電によるMnの酸化還元が電極材料表面近傍で顕著に起こることが確認された。従来の研究ではMnは殆ど充放電に寄与しないと報告されていたが、本研究で準備した酸素脱離サンプルでは従来材料とは異なる電気化学的特性を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
熱重量天秤とクーロン滴定セルを併用することで、次世代リチウムイオン電池正極として期待されているLi過剰系正極材料Li1.2Mn0.6Ni0.2O2の酸素脱離現象を実験的に評価することに成功した。さらにX線吸収分光測定やX線回折測定によって、酸素脱離に伴う電荷補償や結晶構造変化を明らかにした。これは世界的にも例の無いものであり、高性能かつ高信頼性な電池を開発する上で重要な知見である。また以上の結果をJournal of Materials Chemistry A (IF: 9.931)にて論文発表した。同論文の内容は高く評価されて、2019 Journal of Material Chemistry A Hot papersに選出された。 また酸素空孔を導入することで電池特性が大きく変調することを明らかにした。同様の研究は他研究グループからも報告されているが、本研究では1) 酸素空孔量を厳密に制御していること、2) 導入した酸素空孔が材料全体に均質に分散していることが従来研究との大きな差異であり、この二つの独自アプローチによって、これまで解明されてこなかった酸素空孔導入による電池特性変化の本質に迫ることができる。酸素空孔を導入することで電極の「活性化」が促進されて、従来では充放電反応に寄与しないとされていたMnの酸化還元を有効に活用できるようになることを明らかにした。また、この電池特性の変調は電極材料の表面近傍で起こる現象であることが分かった。つまりできるだけ小さい粒子に酸素空孔を導入することで、通常材料よりも電気化学的に活性な正極活物質を合成できることを示唆している。 以上のように、今年度の取り組みにより得られた知見・成果は当初の計画以上のものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究でLi過剰系正極材料Li1.2Mn0.6Ni0.2O2の酸素脱離現象とそれに伴う電池特性の変化が明らかになってきた。Li1.2Mn0.6Ni0.2O2については、酸素脱離により電極材料の表面近傍で構造または組成の変調が起こることが分かっているので、TEM観察、電子線回折、EDXなどにより、表面とバルクの結晶構造および組成変化を評価する予定である。これらの測定は代表者所属機関の共用設備を利用して実施する。これにより酸素脱離導入が電池特性に与える影響の一端を解明することができる。以上の成果をまとめて、学会および論文にて成果発表する予定である。 より実用的な材料として、上記材料にCoを一部置換したLi1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54O2がある。2018年度と同様のアプローチ(熱重量天秤、クーロン滴定、X線吸収分光測定、X線回折測定など)によって、Li1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54O2の酸素脱離挙動を明らかにし、CoフリーのLi1.2Mn0.6Ni0.2O2と酸素脱離挙動を比較する。2018年度の間にSPring-8の2019年前期のビームタイムを申請しており、2019年前期もX線吸収分光測定の機会を確保している。またその他の実験も代表者のラボまたは所属機関共用設備によって実施可能な状態にある。 Li1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54O2の酸素脱離挙動の評価に合わせて、酸素空孔導入が電池特性に与える影響を評価する。酸素脱離導入による電池特性の変化と電極材料の局所的な電子構造、結晶構造、組成変化と結び付けることで、酸素空孔と電極特性の関係性を明らかにすることができる。これにより得られる知見は、将来的に酸素脱離を積極的に電極特性向上に適用するための基礎科学的ガイドラインとなることが期待できる。
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