研究課題/領域番号 |
18K05290
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
齋藤 守弘 成蹊大学, 理工学部, 准教授 (20408719)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酸化マンガンナノシート / 空気極触媒 / リチウム空気極 / ナノカーボン複合体 / 一段階合成法 / フリーズドライ法 |
研究実績の概要 |
昨年度までは、当該空気極触媒であるMnO2ナノシートをケッチェンブラックと複合化した空気極触媒(Mn-NS/KB)について、特にその特徴の一つであるナノシート界面に介在するLi+がLi空気電池(LAB)の放電反応を促進し、またその際により均一にLi2O2を生成することから、充電時にも酸化分解がスムーズに進行し易く、サイクル寿命も延伸することを実証してきた。また、走査型プローブ顕微鏡による評価から、ナノシートは5層以上の重なりを有しており、更に剥離することで比表面積が増大し触媒活性サイトも増加し、界面Li+の更なる効果も期待できると考え、その後は特にMnO2ナノシートの更なる剥離とKB粒子との高分散複合化について種々検討している。その結果、中でもKB分散溶液中で直接一段階でMnO2ナノシートを合成する(One-pot合成)とKB粒子とより高分散に複合化し得ることを見出し、特にKB分散溶液中の界面活性剤の添加量を調整することで、分散性を向上し、更に良好なLAB性能を示すMn-NS/KB触媒を調製できることを明らかにした。現在は、本手法の最適化やキャラクタリゼーションを更に進め、論文化にむけた最終的な検証を進めている。一方、単層剥離の観点からは、並行してフリーズドライによるナノシートの剥離や破砕による触媒活性面積の増大にも取り組んだが、こちらは想定とは異なりナノシートのロール化が進むなど、別途興味深い触媒形態の制御へと応用できる可能性が示唆された。今後、一段合成法と特定の合成段階で組み合せることで、ナノシート状だけでなくナノロール状も含め、ナノカーボン材料と高度に分散複合化したMnO2ナノシートベースのLAB用空気極触媒を合成し、実際の触媒活性との関係やその効果のメカニズムについて検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、KB分散溶液中におけるMnO2ナノシートの合成、すなわちOne-pot合成によるMn-NS/KB触媒のより均一で分散性の高い合成法の優位性を示唆することは出来ていたが、実際にLAB性能の向上という意味では、従来法であるMnO2ナノシートコロイド溶液にKB分散液を混合後に沈殿する方法と同程度の放充電特性であった。しかし、今年度は更なる高分散複合化を目指して、添加する界面活性剤の量を調整したところ、狙い通りの更に高分散化されたMn-NS/KB触媒を得ることができた。サイクリックボルタンメトリーにより簡易的な電気化学診断を行ったところ、二重層容量が約2倍となり比表面積が大幅に増大したことが確認でき、また酸素還元や酸素発生電流もいずれも同様に2倍程度向上することがわかった。すなわち、MnO2ナノシートの剥離と高分散化により、触媒活性点、すなわちLi2O2の析出溶解サイトが増大し、またその形状と更には界面Li+により放電時のLi2O2生成が促進かつ均一化し、充電時も酸化分解し易くしているものと示唆された。その結果、サイクル毎の充電過電圧の上昇が抑制され、LAB試験セルのサイクル寿命も延伸したものと考えられる。このように、更なるナノシートの剥離技術の改良による触媒活性向上は実現できたが、一方で本触媒の反応メカニズムの解明についてはコロナ禍の影響もあり、一定の解析程度に留まっており、次年度は特にこの点に焦点を当てて更なる調査を進めていく予定である。以上のことから、全体としておおむね順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初より提案してきた通り、本触媒においてはMnO2ナノシートを如何に剥離・分散し更にその活性サイトを効果的に利用できるよう、ナノカーボン材料等の電子導電性材料と均一に複合化できるかが重要である。すなわち、触媒活性サイト近傍にて界面Li+がLi2O2生成を促進かつ均一化するため、充電時の酸化分解にも有効に作用しているものと考えられる。したがって、今後の研究方針としては更にナノシートを高分散化し得る高い電子導電性を有するナノカーボン材料との複合化の組合せで触媒活性を更に高める検討と、もう一つは、このような効果について、例えばSPMやXPS、XAFSなどナノシートの界面状態や電子構造を明らかにする高度解析手法による評価を行っていくことを考えている。また、これらの知見を以って実際にこのような高活性・高機能触媒をLAB試験セルの空気極に応用した場合の性能を評価し、LABに特化して現れる新しい性能向上の効果や、反対に特有の課題抽出を行い、MnO2ナノシートをベースとする本触媒の実用化へむけた蓋然性を見極めていきたい。特に、LABに特化した重要な触媒活性のポイントとしては、充電時の酸素発生効率であり、本研究開始後に新たに配備した四重極型質量分析計(Q-mass)やガスクロマトグラフィーを活用し、ナノシート触媒によるLi2O2分解への有効性を検証していく予定である。更に、最近は放充電サイクル中に空気極近傍において副反応として生じる活性酸素の一つである一重項酸素が溶媒分解を引きおこすことがLAB開発の大きな課題として取り上げられているが、この点に関してもMnO2ナノシートがどのように作用するのかどうか評価を進め、新たな効果の探索にも繋げていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、突然のコロナ禍の影響で、実験に必要な物品費や学会出張等の旅費を大幅に抑えることができ、基本的には大学の研究費等で十分に賄えたため。使用計画としては、最終年度にむけて研究を加速するため、物品費だけでなく、研究員や研究補助等の人件費や謝礼も含めて考え、有効に使用していくことを予定している。
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