研究課題/領域番号 |
18K05295
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
蜂谷 寛 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (90314252)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フォノン / 自由電子レーザー / ラマン散乱 / 中赤外線 |
研究実績の概要 |
中赤外自由電子レーザー光源(KU-FEL: Kyoto University Free-Electron Laser)を利用した新しいフォノン分光を着想し、その確立を目指している。エネルギー生成・貯蔵の過程における損失となる熱を制御し、統一的に理解し、より革新的な材料開発に生かすことをめざして、波長可変な中赤外レーザー光源を用いて固体における個々のフォノンモードを自由に選び、励起し、観測できる、新たな分光法を確立することを目的とする。 メチルアンモニウム鉛ヨウ化物(CH3NH3PbI3)および塩化物(CH3NH3PbCl3)におけるCH3NH3+カチオンの内部振動モードのKU-FELによる一光子励起に着手した。同振動モードによキャリアの散乱により、この化合物における励起子からの高効率な電荷分離メカニズムを明らかにし、同化合物の光電変換効率の高さの原因を解明することを目指している。 チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の赤外不活性なモードを一光子励起するべく、格子歪みを導入したLaまたはNbイオンドープの多結晶試料を作成し、間接遷移型バンドギャップの半導体においてフォノン励起と併せた光学遷移によってはじめて観測が可能となるようなフォトルミネッセンス光の観測を利用して、ラマン散乱測定よりも高感度かつ簡便に格子振動励起の実証が可能となる。 また、単結晶ダイヤモンドにおける赤外不活性な振動モードの、KU-FELを用いた二光子励起による選択励起に成功した。このモードはホウ素ドープ・ダイヤモンドにおける超伝導の発現に関与するため、特定のフォノンモードが物性に及ぼす影響の解明と共に、赤外不活性モードの励起により選択励起が可能な光学過程が増大する。FEL照射時にのみ、このモードのアンチストークス・ラマン散乱光が観測された。散乱光強度のFELのエネルギー依存性より二光子励起と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶ダイヤモンドにおける赤外不活性なT2g振動モードの、二光子励起による選択励起に成功した。極低温に冷却した試料に目的のフォノンの波長に調整したFEL光照射で選択的にフォノンを励起した。Nd:YAG レーザー (532 nm) をプローブ光とし、アンチストークスラマン散乱(ASRS)光として励起フォノンを検出した。1,332 cm-1のT2gモードを二光子励起するため、FELを666 cm-1に対応する波長に調整し、極低温(7 K)で単結晶ダイヤモンドに照射した。 その結果、FEL照射時のみ1,300 cm-1付近でASRS光が観測された。また、ASRS光強度がFELのエネルギーに対して二次の応答を示すことから、T2gモードの二光子励起に成功したと考えられる。目的とする波数からの赤色偏位は極度の集光による観測面の破壊によるものであることが示唆された。この成果を原著論文として投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述のダイヤモンド以外の化合物についての中赤外レーザーの一光子励起による選択励起を継続しつつ、ダイヤモンドについては選択励起条件の最適化による試料面の非破壊での測定、ホウ素ドープダイヤモンドにおける同様の赤外不活性なモードの中赤外レーザー二光子選択励起、さらに、その成果を踏まえた超伝導発現メカニズムにおけるフォノンの役割、および、中赤外レーザー光励起による特定フォノンの選択励起によって誘起される超伝導発現条件の緩和の可能性を検討する。
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