研究実績の概要 |
化石燃料資源の枯渇と人為的な二酸化炭素(CO2)排出により、再生可能でカーボンニュートラル社会に資する燃料開発が必要とされている。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは理想的であるが、自然環境に依存し、継続的に利用することが困難な場合がある。一方、化学エネルギー変換は物質の変換であり、環境に左右されない。これまで多くのCO2還元用均一系触媒が開発されてきたが、その中でもビピラジン配位子やその配位子誘導体を含む7族元素(Re、Mn)触媒が広く研究されてきた。最近の研究では、Re, Mn bpy 錯体がTiO2固体表面に担持された場合もしくはMOFに組み込まれた場合も触媒活性を示すことが報告されておりその応用は均一系触媒にとどまらない。一方、6族元素(Cr, Mo, W)を含むCO2還元用均一系触媒の挙動は、Re, Mn bpy錯体に比較して調査が進んでいない。本研究では6族(Cr, Mo, W)のbipyridyl tricarbonyl錯体と7族(Mn, Re)のbipyridyl tricarbonyl錯体について、CO2還元におけるその熱力学、速度論、および電子移動に重要な還元ポテンシャルをDLPNO-CCSD(T)法による電子エネルギーを用いて計算し比較した。結果として以下のことがわかった。(1)6族錯体を2電子還元するには、7族よりも大きな電位が必要である、(2)中間体として生成されるmetallocarboxylic acidはbipyridyl tricarbonyl錯体の第2の電子還元よりも低い電位で還元される、(3)律速段階は第2のプロトン移動であること、(4)律速段階においては、6族のほうが7族よりも低い反応障壁を示しさらに熱力学的にも6族の方が優位であること、(5)COリガンドが6族の方が金属に強く結合しているが、このステップが律速段階になることはないこと。以上の知見はCO2還元のための6族遷移金属を使用した開発に有用である。
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