研究課題/領域番号 |
18K05301
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
高瀬 聡子 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (60239275)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸素還元触媒 / 錯体触媒 / 燃料電池 |
研究実績の概要 |
2019年度は、前年度の金属フタロシアニン系複合触媒の作製法を拡張し種々の金属種と複合比の条件での触媒合成を検討した。得られた触媒の結晶相の同定とUVスペクトルの測定、および分極測定による酸化還元特性と酸素還元触媒特性評価を行った。その結果、鉄とコバルトのフタロシアニンとヨウ素の分離積層型触媒活性向上では、鉄とコバルトの比に最適値が存在することがわかった。 さらにニッケルを加え3種混合としたものと比較した結果、反応開始電位は、ほぼ同じであったが電流値や反応過電圧の大きさから、鉄、コバルトの2種混合が最も高活性であることが分かった。種々の触媒の比較検討から、鉄フタロシアニンが含まれると反応開始点の過電圧が小さく、コバルトフタロシアニンの複合比が0.5以上であると安定性が高いことが分かった。反応開始点の過電圧が小さいことは、UVスペクトル中、第一遷移エネルギーであるQバンドが長波長側に広がっていることと対応していた。パイロクロア型酸化物触媒の高表面積化による高活性化を達成するために、酸化剤を添加したクエン酸塩分解法によるメソポーラス酸化物合成を試みた。これによって高温焼成にも関わらず、酸化物微粉体が得られたが、一部置換系の合成を試みた結果、得られる組成に制限があった。 得られた触媒をガス拡散型カーボン電極中に最適配置するために電極作製を試みた。鉄フタロシアニンを含むフタロシアニン系触媒を疎水性のガス拡散層側、パイロクロア型酸化物を親水性の層に設置した電極をホットプレス法で作製し、硫酸電解質溶液中で酸素還元電流を測定した。その結果、反応過電圧が非常に大きい曲線が観察された。各触媒の活性の問題ではなく、電極構造が原因と考え、改善策を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は鉄フタロシアニン系触媒と耐酸性複合金属酸化物触媒を組み合わせて、それぞれの触媒と酸素の反応環境が最適となるように配置した酸素還元電極を作製することを目的としており、2019年度までの結果から、各触媒系の化学組成と合成条件の変更により触媒活性と耐久性の改善に対して成果が得られたが、触媒反応場の環境を最適化を目的としたガス拡散型カーボン電極中の触媒設置条件の検討では、課題が残っている。 本研究で用いている電極は、主に疎水性カーボンが構成材であるガス拡散層と、主に親水性カーボンで成る反応層の2層構造であり、反応層の電解質に直接触れる側では、強酸性条件となるため、鉄フタロシアニン系触媒の水素イオンによる鉄の交換脱離が生じることを確認している。この鉄脱離による失活を防ぐために、酸素と鉄フタロシアニンの反応場をガス拡散層側に、耐酸性複合酸化物触媒を電解質側に設置する電極を作製するために、反応層粉末を2種調整し、ガス拡散層粉末とともにホットプレスによって一体成型し、硫酸電解質中で酸素還元特性評価を行ったところ、酸素還元反応に必要な過電圧が大きく還元電流密度も小さかった。電極作製中の鉄フタロシアニンの変性も考えられるが、電極構造と作製条件の改善が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
電極材料中の高活性と比較的高い耐久性を示す触媒は準備できており、電極作製条件を種々に変更して、小さい過電圧で高い酸素還元電流密度を示す電極を作製する。検討する条件は、触媒量、触媒のカーボンへの分散担持法、2種の触媒の配置について行う。2019年中に作製した電極は2種の触媒担持層を完全に分離していたので、各触媒上の酸素種の移動の連続性の問題があり、移動速度が遅かったのではないかと考えており、2種の触媒を混合した中間層の設置を検討する。中間層の設置の有無、種々の触媒量を担持した各電極を用いた硫酸電解質中での飽和酸素条件下での分極測定によって、還元反応の過電圧と還元電流の大きさからカソード電極特性を評価し、最適条件を決定する。また、各電極中の界面の反応速度を交流インピーダンス法によって交流抵抗として測定し、電極構造と律速段階に関する考察を行う。さらに、一定電位印加条件で還元電流を測定する方法と電位掃引を繰り返す手法で耐久性評価を行う。また、耐久性評価後の、エネルギー分散型X線分析装置による電極中の鉄分布の観察、蛍光X線スペクトル観察による鉄の化学状態の観察等によって、鉄フタロシアニンの電極内の変化の有無を観察し、鉄フタロシアニンが高活性を維持できる電極条件を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
参照電極用の水素発生器と測定用の電極の購入を検討していたが、安価で水素発生器が不要な参照電極系の導入により大きく節約できた。また、電極評価の結果が良好でなかったために、国際会議での発表を見合わせた。また電気化学会等の国内旅費は別の予算で支出した。 2020年度も国際会議の発表は見合わせたので、回転系が不調の回転電極装置の購入を予定している。また、電極作製と評価のために人件費の支出を予定している。また、電極作製資材(貴金属電極、触媒調整試薬、高分子イオン導電体)、電極粉末調整用器具(ボールミル用メノウポット)を購入する。
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