酸素還元反応が低過電圧高電流密度で進行するカソード電極の構築を目的として、高活性ではあるが反応条件下で失活が著しい鉄フタロシアニンの活性を維持する手法を検討した。その失活の原因を電解質中の高い濃度の水素イオンによる鉄の置換反応と考え、ガス拡散電極の反応層を分割し、鉄フタロシアニンを空気側のみに設置し電解質に接触しない電極を構築した。この時、電解質側には耐酸性が高く酸素イオン導電性と酸素還元触媒活性を有するパイロクロア型酸化物を設置した。しかし、パイロクロア型酸化物単独電極と比較して活性の改善が見られなかった。 この結果を多段階の酸素還元反応プロセスと物質移動をもとに考察した。申請者がガス拡散電極内の親水性の酸素還元への影響を調査し、親水性向上は反応律速段階の電流値の向上に寄与することを見いだした。この結果が示す酸素還元反応への水素の必要性と、鉄フタロシアニン上に吸着した酸素分子の反応に水素イオンが関与しない場合は、分子内の結合が切れ酸素イオンとして脱離すると考えられることから、水素が関与しないプロセスは過電圧が大きいと考えた。すなわち、吸着酸素の結合の切断とイオンの移動には水素イオンが関与したルートの方が過電圧が小さいといえる。 そこで、鉄フタロシアニンの耐久性向上の検討として鉄フタロシアニン近傍の水素イオン濃度を減少させるために数種の疎水性材料への担持効果を検討した。その結果、グラフェンに担持した触媒の耐久性が向上することが分かった。さらに中心金属種を複合化させたものとヨウ素との電荷移動錯体を形成した触媒が高電流密度を示すことが分かった。 結論として酸素還元反応を進行するために水素イオンが必要であるが、過剰な水素イオンは鉄フタロシアニンを失活させる原因となる。これを反応場の疎水性向上により水素イオンの鉄への影響が軽減され、活性向上が実現したと考えている。
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